今回も、組織の中盤戦のグループに乗ることについて見ていきたい。

組織には、人生と同じで発達段階というものがある。エリク・エリクソンの発達段階モデルに沿って見てくととても良く当てはまるのであった。

○組織の発達段階

第1～3段：導入期①意志キャラクタに乗る（0～6年目）衝動型組織　”自立”vs 罪悪感

第4段：導入期②表面キャラクタに乗る（7～12年目）順応型組織　”勤勉性”vs 劣等感

第5段：導入期③本質キャラクタに乗る（13～19年目）達成型組織　”自我確立”vs 自我拡散

第6段：成長期　グループに乗る（20～39年目）多元型組織　”親密性”vs 孤独

第7段：成熟期　レールに乗る（40～64年目）進化型（ティール）組織　”世代性（伝承）”vs 停滞

第8段：安定期　老年レールに乗る（65～84年目）分散型（ブロックチェーン）組織　”統合性”vs 絶望

第9段：衰退期　全てを超越する（85年目～）個人の集合体組織　”老年的超越”vs 死

組織の中盤はというと、成長期（20～39年目）だ。ここにしっかりと乗っていけるかどうかを見ていきたい。そのためにも、まずは、人生の成人期（20～39才）を見ることで、参考にしたいのだった。

人生における社会進出とは、会社に就職し、仲間とともに仕事をしていくことであった。仕事には他者との関わり、責任の追及、忖度や上司との関係性、などいろんなことを初めて経験することになる。いままで個性を確立し、”自分”ということに目を向けていたのが、今度は、”他人”ということに目を向けていかねばならなくなるということだ。”自分”と”他人”との関係性をいかに構築していくか！ここが大人への第一歩ということだ。

・組織における社会進出

組織における社会進出とは何なのだろうか？組織の基礎と事業の方向性が固まり、成長を図る時期であり、マーケット拡大を担う「マーケティング」「営業・販売マネジャー」などを求めるようになる。競合が増える前に一気にシェアを獲得するため、スピード感を持って推進できる人が求められる。組織や仕組みを整える時期でもあるため、「経理・財務」「法務」「人事」「広報・宣伝」「購買／調達」「物流」などのスペシャリストも必要になる。IPOを目指す企業では「CFO」「IR」などのニーズも発生する。このフェーズで欠かせないのは”経営チーム”を作る事だとドラッカーも言う。そう、成長期における組織の社会進出とは、IPOを目指すことと言える。

・組織における結婚

さらに、大人へのもう一歩として、”結婚”という出来事が待っている。親密性を獲得するのに、結婚はまさに中核をなすのであった。組織における結婚とはどういうことを指すのであろうか？それはM&Aなどのことを指すのであろうと思う。M&Aは、日本語では「合併と買収」と訳される。合併とは、２つ以上の企業が１つの企業に統合されることであり、一方の買収は、企業が別の企業の経営を支配することを目的として株式を取得することである。いずれも、経営戦略に大きな影響を与えるのだ。

・組織における合併後の時期

選択がなされ合併後数年間は、混乱と共に相互の適応の時期が訪れる。この時期は、とりわけ困難な問題に直面する時期でもある。合併後には「人事制度は統合すべき」と捉えられることが一般的である。そして、人事制度の統合が困難（デメリットが多い）なことを理由に、合併ではない形態（子会社化、持ち株会社傘下での組織再編など）を選択する場合もある。

合併前は、それぞれの会社の基準で支払われる給与水準で（満足であったか否かは別として）納得して働いてきたはずである。それでも、合併して同じ会社の中に「同じ業務や役職で給与水準が異なる」という状態が発生すると、（特に給与水準が低い方の社員は）給与の決定基準が不公正であると感じるようになる。社員のモチベーション低下を回避するためには、あらゆる処遇条件を水準が高い方の企業に合わせることが最も安易な方針だが、当然ながら人件費は大きく増加する。M&Aの目的に照らした時に、このような人件費増大が許容されることはほとんどないだろう。たとえ一部であっても処遇水準が下がるような制度変更は、不利益変更と見なされる可能性がある。統合の混乱期に社員からの訴訟まで抱えてしまっては、合併を成功に導くことは難しくなるだろう。

リスク回避を徹底した結果、制度が複雑すぎて人事担当役員ですら全貌を正しく理解できない状態になってしまうこともある。社員が正しく認識し、職場の上司が適切に運用できるようなシンプルな制度でなければ、混乱を解消することはできない。多くの社員が「合理的かつ公正」と感じるような制度統合を行うためには、（過去の延長線上ではなく）M&A後の新しい企業理念や事業戦略といったより上位概念に基づいて統合方針を描くとともに、複雑なリスクを漏れなく把握し、残存リスクの存在を認識し、残存リスクのコントロール（回避、軽減）を丁寧に行っていくことが重要である。

「過去の否定」が、M&A後の新しい会社への前向きなコミットメントにつながってくれればよいが、実態は、M&A（あるいは合併）に対する否定的な態度や言動に転化していく場合が多い。給与は「金額」という明確な測定基準で、自分自身の価値を、自分の過去や周囲の同僚と比較して実感することが可能である。ところが、合併時における給与水準の変動（上がる場合も、下がる場合も）は、本人の実力や職責の変化に伴う変動ではなく、まさに「制度統合の影響（様々な観点でバランスをとった結果としての給与テーブル調整の結果）」であることが多い。

だが、本人は制度統合の複雑な背景など知る由もなく、金額が下がった（あるいは、調整給などで補填されている場合でも、実質的に給与を下げられたとわかる）給与通知を見て、M&A後の新しい会社は自分を評価してくれないのだ、と感じるだろう。金額が上がった場合でも、「今までの給与水準が不当に低かったのだ」などと受け止める社員もいる。人事部や経営陣は、様々な観点を総合的に（様々なリスクのバランスに苦心しながら）考えて人事制度の変更を決断しているのだが、そのようなことは社員には伝わらない。統合された人事制度の認識は、給与通知に記載された金額の上下に基づいて形成されるのだ（社員は、「結局、そういうことか...」と静かに思う）。社員の認識を直接的にコントロールすることは困難だが、コミュニケーションプラン（説明のシナリオ、方法、タイミングなど）を工夫することで、適切な認識に導ける確率を高めることは十分に可能であり、より慎重に準備すべきであろう。

さらに組織再編も重要な要素となる。合併は、会社が他の会社の権利義務の全部を承継し、一つの会社になる方法である。異なる2社以上の会社が合併して新会社となる新設合併と、会社が既存の他社に吸収される形式で一つの会社になる吸収合併がある。

吸収合併による組織再編とは、ひとつの会社を残してもう一方の会社から権利義務などを承継する手法である。解散会社の権利義務をすべて承継されるので、ノウハウ・営業権・従業員などを引き継げる。ただし許認可は、吸収合併の前後で申請を行う必要があったり、一部の許認可しか引き継げないため再取得を求められたりする。許認可の種類などによって許認可が引き継がれるわけではないことが要注意だ。なお、これなら自社で事業を始めるよりもコストを抑えられる。

一方、新設合併による組織再編とは、合併に関わる当事会社がすべて消滅し、新たに設立する会社に権利義務などを承継させる手法である。ただし吸収合併の組織再編とは異なり、許認可は引き継がれない。また、新たに会社を設立する必要があることから手間と時間を多く要し、好んで選ばれない手法といえそうだ。

合併後の組織再編にて、複雑になった事業領域をきちんと整理できるかがポイントとなる。この際に、上手くピラミッド型の組織から、フラット型の組織に移行できれば、発達段階第6段の”親密性”の獲得に大きく近づくことができると言える。M&A後のフラット型への移行の実例を見てみよう。

・KADOKAWAの事例　以下、こちらより抜粋。

エンタテイメント事業大手のKADOKAWAが、2020年10月1日付で大胆な組織再編を実施した。KADOKAWAは出版や映画、アニメ、コミック、ゲーム、音楽、教育など幅広い事業を持つ日本を代表するエンタテイメント会社である。当初は6本部1グループで構成し、本部の下にさらに部署を設けている。今回の再編ではこの本部制を廃止して、グループ全体を新たに13領域に再編した。領域は「出版」「文芸・映像」「アニメ」「ゲーム」「デジタル」「レクリエーション」といった事業ジャンルに分けたものが6つ、「ライツ」「営業宣伝」「製造流通」「人事総務」「経営企画」「内部統制」と機能で分けたものが6つ、さらに「海外」となっている。

出版会社の角川から出発した同社は、映画や他社出版、ゲームなど多くの会社の買収を繰り返し、さらに2014年のドワンゴとの経営統合とM&Aを中心に事業拡大をしてきた。多彩な事業がある一方で会社の一体感は弱く、複数部署による重複事業も多いとされていた。今回の組織再編ではこれらをバラバラにしたうえで、文字どおりひとつの会社に組み直すものとなる。組織改編の多いKADOKAWAではあるが、一際大きなものとなる。また「ライツ」「営業宣伝」「製造流通」「人事総務」「海外」がそれぞれ全社的な独立領域になることで、バックオフィス部門の効率化も進むであろう。

組織変更に伴って、役員職務の掌握も大きく変更する。副社長や専務、常務といった役付き、さらに本部長、副本部長といった職務が廃止になる。代わって領域ごとの統括責任者としてチーフオフィサー(Chief Officer)を配置する。役員構成をフラット化することで、領域での決裁権限の拡大と体系を明確化する。効率的な意思決定によるスピード感ある経営が可能になるとする。このうち現代表取締役副社長で執行役員・グループ IP事業統括の井上伸一郎氏は代表取締役のまま執行役員として、チーフ・アニメ・オフィサー(Chief Anime Officer）に就任した。ドワンゴ代表取締役社長でもある夏野剛氏は、取締役執行役員チーフ・デジタル・オフィサー(Chief Digital Officer）となった。

このような大胆な組織再編が成功すれば、M&A後の組織に統一感と一体感が生まれるということになる。この成長期後期への変革の一歩として、組織再編が成功し得るかどうかが重要なポイントになるということだ。達成型（ピラミッド型）組織⇒　多元型（フラット型）組織への移行が実現できるかどうかということだ。

・達成型（ピラミッド型）組織

・多元型（フラット型）組織

・組織における出産

組織の階層を減らしてフラット化すれば、情報共有が進み、意思決定のスピードも上がる。職能別の階層型組織を、顧客価値に沿った小さなスクラムチームに変革すると、経営層の役割は、従来の計画の承認と進捗の管理から、スクラムチームの自律と協調を促進するために会社の方針と状況を透明化し、新たな企業文化を創り上げていくリーダーシップに変化する。多くの企業は、スクラムの導入を単なるシステム開発手法の変更ととらえている。だが実際には、企業文化の変革であり、経営層のコミットメントが欠かせない。経営層がスクラムを十分に理解し、固い決意をもって新たな企業文化をリードできれば、持続的なイノベーションを生み出す組織へと生まれ変われるはずだ。以下、こちらより抜粋。

理想のスクラムチームとは、顧客と直接対話をしながら、他のチームに依存せず、新たな顧客価値を生み出せるチームである。そのためチームには、ビジネスやITなど、さまざまな経験／スキルを持つメンバーが集まる必要がある。顧客と直接には対峙しない社内のサポート業務についても、どのようにスクラムチームに対応すべきかも考慮しなければならない。下図1は、米Scrum Inc.が全社のスクラム導入を支援した米3M Health Information Systems（HIS）におけるスクラムチームの組織図である。

3M HISでは、バリューストリームごとに「スクラム・オブ・スクラム・オブ・スクラム」が設置され、エクゼクティブメタスクラム（EMS）が会社の戦略的ビジョンやサービスやプロジェクトの優先順位を決めている。スクラム組織においては、広報、法務、人事の領域の仕事にも柔軟性や創造性が求められる。3M HISの場合、広報、法務、人事といったサポート業務のチームもスクラムチームになっている。サポートチームのプロダクトオーナーが他のチームから受けた依頼がバックログになり、他のプロダクトチームと同様、スプリントの単位で社内顧客に向けた価値を生み出している。3M HISの体制は、スクラム組織の最終形態に近いのかもしれない。

多くの組織、特にIT部門では、年間のプロジェクトと予算の計画が前年度の方針管理と並行して、決められることが多い。各部門がプロジェクト単位で必要なリソースやROI計画を立て、ビジネス・IT・ファイナンス部門での調整のうえ合意され、組織運営のベースになる。プロジェクトの実行にあたっては、さらに詳細なプロジェクト計画を立て、組織の横縦の、さまざまな会議体で、計画の内容（顧客価値・ROI・システムのアーキテクチャーなど）を吟味し、経営層の承認を経て可決される。合意を得るのが大変なだけに一旦可決されると大掛かりな変更は難しい。スクラムチームの機動性を活かすためには、こうした意思決定の仕組みにも大幅なメスを入れる必要あるだろう。年間ではなく、少なくとも四半期ごとに優先順位を決める必要があるだろう。そして今後のROI計画だけでなく、リリースしたプロダクトの累積ROIや顧客評価、実際の利用状況も優先順位付けの判断に組み込む必要があるだろう（図4）。

人事評価の変革についても変革が必要だ。従来の人事制度は、上司が一方的に部下の目標を設定・管理する垂直方向のため、スクラム組織にはフィットしない。スクラムチームのメンバーやQC活動のメンバー、プロダクトオーナーであれば、スプリントレビューに呼ぶ社内のステークホルダーや緊密な顧客を含む360度評価が有効であろう（図5）。チームメンバーだけの360度評価では、公平性にかけると思うなら、ファンクションオーナーに最終的な判断を任せるのも有効だ。ボーナスについては、スクラムチームやスクラム・オブ・スクラムがリリースしたプロダクトが企業にもたらした価値に応じて、一律のボーナスを支給することもメンバーの協働とエンゲージメントを高める。

こうして、ピラミッド型の指揮命令から、フラット型組織へと変革していくのが成長期ということになる。組織は上手くいけば躍動していくかもしれない。一方で、ポストが減ることにより、若手がミドルマネジャーとして経験を積む機会が失われてしまう。そうなると、長期的な目線で見ると、経営者層の育成がストップしてしまうことになる。そこで、行われるのが子会社を生み出し、若手を社長に起用するということだろう。

1つのチームが肥大化していくことで子会社化したり、ある機能を分離させ子会社化したり、していく。ここでジレンマに陥る。そう、元のピラミッド型の組織に戻ってしまうのではないか？ということだ。あくまでも親会社は、子会社について実行的な支配ができる立場を維持する。子会社化したからといって、子会社が完全に親会社と離れるわけではないのだ。ただ、自社とは異なる資本が５０％も入ることになるのだから、文化やコミュニケーションスタイルは当然異なってくる。いかに自社と関連付けながら、新たな文化を醸成できるかどうかが、子会社の育成に成功するかどうかのポイントとなる。

ただでさえ、自社の組織再編による意思決定や人事評価の仕組みも定まらない中、子会社が誕生したからといって、ベッタリと寄り添う時間もなければ、すべもない。ミッションや方向性を共通化し、あとは任せていくという大ざっぱなマネジメントになるのであろう。放置しすぎると、子会社は弱体化してしまったり暴走したりする。干渉しすぎても次世代経営者層が育成されない。失敗しても大目に見るという親心をもって、見守っていくことになる。成果がでないとストレスにもなるだろう。

こうして、子会社が１社、２社と誕生していく。順調に子会社共々、成長していければよいか、そうならなければ、発達段階第６段で行き詰まることになる。クリアできれば、親密性という課題がクリアでき、いよいよ、第７段の成熟期に向かうことになる。この成熟期には組織はフラット型から、ティール型へと移行することになるのだ。

いかがであろうか。これが成長期後期の状態である。ここまできてはじめて第６段の親密性という課題をクリアできるというのだから、相当にハードルが高いことがわかる。このようなハードルをクリアできる企業はまだまだほんのわずかだ。順調に第６段の成長期をやり過ごすことが、多くの企業にとって、目標となるのであろう。

組織の中盤戦について 成長期後期

組織の中盤戦について　成長期後期