走行中のトレーラーのタイヤが外れて歩行者の母子を直撃した。ホープ自動車が出した「運送会社の整備不良」の結論に納得できない運送会社社長の赤松徳郎。真相を追究する赤松の前を塞ぐ大企業の論理。家族も周囲から孤立し、会社の経営も危機的状況下、絶望しかけた赤松に記者・榎本が驚愕の事実をもたらす。


事故原因の核心にかかわる衝撃の事実を尻、組織ぐるみのリコール隠しの疑いを抱いた赤松。だが、決定的な証拠はない――。激しさを増すホープグループの妨害。赤松は真実を証明できるのか。社員、そして家族を守るために巨大企業相手に戦う男の姿を描いた、感動の傑作エンターテインメント小説。



タイトルからもわかるように、自動車からタイヤが外れてしまう、という致命的欠陥を隠そうとする大企業・ホープ自動車と、その欠陥のために日々充分な整備を行っていたにもかかわらず、外れたタイヤが一般人を死に至らしててしまったために、得意先や銀行から取引を見合わせられ、孤立してしまう中堅運送会社・赤松運送。その社長、赤松が大企業相手に、大きな壁に阻まれながらも、ひとり戦い続けるという壮大なストーリーです。


テーマはリコール隠し。現実にも何度も発生している事件をテーマにし、一人の熱過ぎる男の生き様を描いています。赤松は、父親の興した事業を受け継いだ二代目。ですが、能力がないわけではありません。相手が大企業でも言うことは言うし、自分が誤っていれば相手が部下であっても躊躇わずに謝罪する誠実な心を持つ主人公です。トレーラーのタイヤが外れ、人身事故を起こしてしまった会社、暇そうだからという理由で押し付けられたPTA、警察の取調べ、次から次へと難題が降ってわき、赤松は苦闘しながらも前向きに取り組んでいきます。


という魅力的なキャラクター設定のうえで、大企業の隠蔽体質や、銀行との癒着構造、殿様商売など一般消費者が大企業に対して持っている悪印象の総合商社のような企業・ホープ自動車の内部・暗部をリアルに描き出してあり、また、その企業の中でも大企業の論理に対して、上層部と戦う企業戦士にもスポットライトが当てられます。この作品は、その二つの面からストーリーを追っていくことになります。


上下巻でかなりボリュームがありますが、起承転結、わかりやすい構造でそしてもちろん正義は勝つ爽快なストーリー。一気に読める楽しい本です。


大企業の中で大企業と戦う男・沢田。彼が行き詰ったとき、自分はどうすべきか、ときどき妻に相談します。実に的確なアドバイスをくれる妻。このシーン、とても印象的です。こんな女性がいたら、素晴らしいですね。


オススメ度 ☆☆☆☆



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