サンローラン(Saint Laurent)の2027年春夏メンズコレクションを見て、最初に感じたのは「頑張って目立たなくても、服そのものに力があれば十分」ということだった。今季は、強いロゴや過剰な装飾で視線を集めるのではなく、シルエット、素材、光の反射、そして身体との距離感で魅せる服が中心。アンソニー・ヴァカレロらしいシャープさは残しつつ、以前よりも力が抜けていて、着る人の存在感を前に出すような雰囲気がある。個人的には、こういう服のほうが実際の生活へ落とし込みやすい。ランウェイだけで完成する服ではなく、通勤、会食、旅行、休日と、場面を変えながら表情を変えていけるからだ。

 

朝の仕事着として考えるなら、3ボタンジャケットがいちばん現実的だと思う。サンローランというと細身で緊張感のあるジャケットを想像しやすいが、今回はシルクにコットンやリネンを混ぜた軽い素材使いが印象的。春夏のスーツはどうしても「暑い」「重い」「汗が気になる」という問題があるが、こうした混紡素材なら見た目の品を保ちながら、身体への負担を少し減らせる。私は白シャツではなく、薄いグレーのTシャツやシルクニットを合わせたい。ネクタイを外してもジャケット自体に艶があるので、ラフになりすぎない。朝から会議があり、そのまま夜の食事へ行く日にも使いやすそうだ。

 

素材の見え方もかなり面白い。光の角度によってブルーにもグレーにも見える繊細な織りは、遠目では無地に見えるのに、近くでは奥行きが出る。こういう生地は写真以上に実物で価値が分かるタイプだと思う。一般的なウールスーツのように輪郭をはっきり見せるのではなく、光によって表情が揺れるため、同じジャケットでも昼と夜で印象が変わる。日中は落ち着いたグレーに見え、夕方の照明では青みが立つ。服を何着も持ち替えなくても、環境によって表情が変わるのはかなり贅沢だ。

 

夜の食事やイベントなら、ゴールドのトレンチコートやシングルブレストジャケットが気になる。普通なら金色のアウターはかなり派手に見えるはずだが、今季のサンローランは光沢を全面に押し出すのではなく、シルエットを削ぎ落としているため、意外に静かだ。私は全身を華やかにするのではなく、黒の細身パンツと黒いレザーシューズに合わせたい。そうすれば、コートだけが光を拾い、歩くたびに少しだけ輝く。フラワーモチーフのビジューボタンやクリスタル入りのバックルも、近くで見たときに気づくくらいがちょうどいい。

 

他ブランドと比べると、ディオールのメンズテーラリングはもっとクラシックで端正、ルイ・ヴィトンは装飾やストーリー性を前面に出す場面が多い。一方、ザ・ロウはさらに静かで、素材そのものに価値を置く。その中でサンローランは、ミニマルでありながら少し危うい色気が残るのが特徴だと思う。同じ黒いジャケットでも、ザ・ロウなら柔らかく落ち着き、ディオールなら品よく整い、サンローランなら身体のラインや肩の角度まで意識させる。この“静かなのに緊張感がある”というバランスは、かなり独特だ。

 

旅行に持っていくなら、私は軽いジャケットを一着だけ選びたい。リネンやコットンを混ぜたシルク素材なら、ホテルのレストラン、街歩き、移動日と使い回しやすい。昼はTシャツとデニムに羽織り、夜は黒パンツへ変えるだけで雰囲気が変わる。サンローランの服は一見フォーマルに見えるが、実際には中に何を合わせるかでかなり崩せる。特に今季は装飾を抑えているので、スニーカーと合わせても違和感が出にくい。旅行先で服を増やしたくない人には、この“ひとつで複数の場面に対応できる”ことが大きな価値になる。

 

品質面では、やはりシルク混素材の扱いに少し注意したい。見た目は軽く、美しい光沢がある一方、摩擦や水分に強い素材ではない。毎日満員電車で着る、バッグを肩に強く掛ける、頻繁にクリーニングへ出すという使い方なら、もう少し丈夫なウールやコットン主体のジャケットのほうが向いているかもしれない。つまり、これは“雑に着て味を出す服”というより、着る日を選びながら長く付き合う服。価格が高いだけに、購入前には見た目だけでなく、普段の生活習慣まで考えたほうがいい。

 

では、実際に買う価値はあるのか。私は、ブランドロゴではなくシルエットや素材で違いを出したい人ならかなり満足度が高いと思う。反対に、一着で分かりやすく存在感を出したい人には少し地味に感じるかもしれない。サンローランの価値は、写真で派手に見えることより、実際に着たときの肩の線、パンツとのバランス、歩いたときの生地の揺れにある。そういう細部を楽しめる人向きだ。

 

今回のコレクションは、“目立つ服を着る”というより、“目立とうとしなくても印象に残る人になる”ための服に近い。私は一着だけ選ぶなら、ブルーとグレーの間を揺れる3ボタンジャケットを選ぶと思う。仕事の日にはシャツ、休日にはTシャツ、夜にはシルクニット。合わせるものを変えながら何度も着られるし、流行が変わっても古く見えにくい。派手な新作より、こういう静かな服のほうが、数年後に「買ってよかった」と思えることが多い。