こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。
NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。
久々に、実に見応えのある舞台を見る機会に恵まれた…
このOff-Broadwayのプロダクション「Public Charge」は、かなり複雑な政治劇なのだが、早いテンポで状況が的確にわかるの会話の応酬で、驚くほど分かりやすいのだ!…また、シンプルなセットでほとんど照明だけで場面転換を瞬時に行い、人によっては何役も演じ分けるのだが、それぞれのキャラクターも人間的で記憶に残る…その素晴らしいアンサンブルワークが実に見事だった…
この公演が上演されたThe Public Theaterという劇場からは、多くの作品がBroadwayへ格上げされているのだが、この「Public Charge」も、この後Broadwayに移っても一向に驚かない…
ここから先はややネタバレ警告…
事実が元になっているので、ネタバレもへったくれもないし、オバマ政権下の話なので、そこに出てくる出来事はいずれも「ああ、そういう事もあったなぁ…」と、ほとんどの人達にはまだ記憶に新しい…逆に、我々にはこの後に何が起こるかわかっているのだが、それを知らない登場人物達と一緒に、ドキドキハラハラさせられた…
Julissa Reynosoは、子供の時にドミニカ共和国から家族と一緒にアメリカに移住してきた移民だが、「お前達のような移民は、いずれPublic Charge(生活保護の受給者)になって、社会のお荷物になるしかない」と、中々ビザがおりなかった…しかし、その彼女は「社会のお荷物」どころか、後にアメリカの外交を変えた人材となるのである…
ハーバードを卒業した後、法律事務所で働いていたJulissaは、ある時その優秀さと流暢なスペイン語やラテンアメリカの知識を見込まれ、クリントン国務長官のチーフスタッフであったCheryl Millsのアシスタントになる…その頃に彼女らが直面していたのは、キューバで拘束されてしまったアメリカ市民のAlan Grossを、何とかアメリカに戻す事だった…しかし、実はそのAlan Grossは、単なる無実の民間人ではなく、実はアメリカ政府によってキューバのカストロ政権を転覆させる為に送られたエージェントだったことから、事態はややこしい事になる…
そこでJulissa達は、何とかキューバの要人達と交渉するのだが、このキューバ側がまた一筋縄ではいかない…また、アメリカ側もお役所仕事の様々なポリシーが障害になる…まぁ、ポリシーというのは、そもそも現状維持の為にあるので、その現状を変えようとする場合にはどうしても邪魔になるのだが、それでは何も打開できない…しかしポリシーを無視する事はできないので、Julissa達はあらゆる手段を講じて、何とか道を開こうとする…その中には普通ではやらないような突飛な発想のものもあったりするのだが、その困難な状況を何とか切り崩していこうとする過程にはハラハラドキドキさせられる…
やがてキューバ側は、Alan Grossと引き換えに、アメリカで拘束されている5人のキューバのスパイを解放しろ…という取引を持ちかける?!…しかし「敵との取引には応じない」というのが、オバマのポリシーなのだ…しかし、Alanは何としても戻さねばならない…それならキューバが「敵」でなくなればええんちゃう?!…というわけで、キューバとの国交正常化への道が模索されることになり、彼女の働きで、2014年、アメリカとキューバの歴史的な国交正常化がついに実現するのだ…
その事は、キューバとの国交正常化を国民にアナウンスする、オバマ大統領の実際のビデオクリップで示される…その時にオバマは言う「We should do right things. (我々は正しい事をするべきだ。)」…この「right things」というのは、「人として正しい事」というニュアンスがあり、それは後のバイデン大統領の口癖でもあったが、それはJulissaの信じるところでもあった…損得勘定や利害によるのではなく、本当に人として正しい事をやらねばならない…その結果、長年敵同士として国交を断絶してきたキューバとの付き合いが再開したのだ…
またその2014年には、ブッシュが破壊したアメリカ経済もようやく回復し始め、その翌年には同性婚が合法になり、社会が確実に良くなっている…と感じられる、希望に満ちた時代でもあった…
さらにヒラリー·クリントンが2016年の大統領選のキャンペーンを始めた頃で、誰もがその勝利は確実だと思っていたし、ヒラリーが大統領になれば、なぜかクレージーな独裁者を選出してしまう南米との関係もきっとよくなる!…とJulissa達は明るい未来像を語る…まさか、そのアメリカ自身が、ヒラリーの代わりにクレージーな独裁者を、しかも2度も選ぶとは知らずに…
そのオバマの2014年のビデオを見ながら思わず号泣したのは、多分私だけではなかったと思う…「Do right things」…これこそ、現在のアメリカが失ってしまったものだからだ…
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