こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

先日この映画のスクリーニングに行った…

 

 

正直言って、実に胸糞悪い映画だった…もっとも、私が「胸糞悪い」と感じたのは、それが、いわゆるゲイ映画だったからではないそこに出てくるカップルの不平等な関係に、思い当たるところがありありだったからだ

 

ここから先はややネタバレ警告

 

Colinはある時偶然出会った、理想の外見の相手Rayに一目惚れ…付き合う様になると、全身全霊で彼に尽くし、彼の恋人でいる為にはどんなに酷い扱いにもひたすら耐える…これは同性カップルのお話だが、同じ様な関係は男女のカップルにもあるある物語…のみならず、これはまさに少女漫画の王道ストーリーではないか?!…ものすごいイケメン男性が現れて彼に恋をし、なぜか彼からも目を止められて付き合う様になったが、彼はツンデレ…冷たくあしらわれても、たまに笑顔を見せられ、優しくされるともうそれだけで舞い上がってしまい、ひたすら尽くしてしまう…彼の好みに髪型や服装を変え、彼の言う事には逆らわず機嫌を損ねない様にたえず気を使い…と言うColinの姿を見ていると、「こいつはやめとけ!こういう奴と一緒になると絶対不幸になるから!」と叫びたくなる…しかし、同時に別れる事の難しさも実によくわかってしまうのだ…それは自分にも身に覚えのある道だからだ

 

そしてそういう男は、女の方が少し自己主張し始めたり、力をつけ始め、力関係のバランスが変わり始めると、途端にその関係そのものも危うくなる…男の方は、女の方が自分より強くなったり、能力がある事に耐えられなくなるからだ…そして映画も、私の予想通りの展開となる…

 

タイトルのPillionとは、バイクの後部座席の事…つまり、そこはバイカーの恋人の席だが、恋人の行きたい方について行く事しかない…そんないつもRayについて行くだけだったColinが、ある時とあるきっかけでそのバイクに乗って1人爆走する…その時彼は初めて自分の意志で行きたいところへ行く自由を味わうのだ…そしてその時から彼らの関係は変わり始める

 

そのColinを演じるHarry Melling「Harry Potter」のダドリー少年でお馴染みだが、「The Pale Blue Eye」過去記事参照)でも実に存在感のある芝居をしていた…今回もそのつぶらな目で一心に彼を見つめる姿は、まさに子犬…そのパンク風の巨大なチェーンネックレスが、これまた犬の首輪にも見える…また彼はそのパンク風に頭を丸刈りにするのだが、そうやってみると実は意外にイケメンだったりするではないか?!…それだけに彼が邪険に扱われる様子に、観客は「早くこんな奴とは別れろ!あんたならもっと良い人絶対見つかるから!」とヤキモキさせられる…

 

そしてその超イケメンのRayを演じるのは、Alexander Skargard…彼はTVシリーズの「Big Little Lies」では残酷なDV夫を演じていたのだが、今回は、これがもう、どのシーンをとっても息を呑むようなイケメンなのだ!バイクスーツ姿は言うに及ばず、パンツ一丁でさえ、本当にため息が出る様な美しさである…そもそもアメリカのイケメンは、顔が綺麗なだけではダメで、完璧なナイスボディがあってこそ…その点北欧系の美形である彼は長身で足が長く、色白金髪…とまさに少女漫画の「王子様」のイメージに見事にハマるので、そんな彼に気に入られる為なら奴隷にだってなります…というColinの気持ちも、まぁ、わからなくはない?!

また、このRayというキャラクターは、一歩間違えばとんでもないメンヘラ野郎なのだが、このAlexander Skargardという俳優さんには、普段は極めて無表情だが、時折輝くような笑顔を見せ、そこには「こいつは実はいい人なんじゃないか?!」「これは彼がマイペースなだけで悪気はないのではないか?!」と思わせる様な、不思議な「無垢なクオリティ」がある…そして2人の力関係のバランスが逆転した時、彼はまるで迷子になった子供のようなVulnerble(脆く傷つきやすい)な表情をする…それを見た時、観客も、実は彼が絶対的な強者の立場でいたがる傾向は、彼自身のInsecurity(不安)の裏返しだったのだなぁ…とはっきりわかる…その一瞬明らかになった人間的な弱さが、彼をただの悪役のモンスターではなく、実に人間らしいキャラクターにしている…これは私は俳優さんの手柄だと思う…

 

ちなみに、私は実生活ではこういうDVモラハラ男は真っ平だし、それに耐えて尽くす様な根性はもとよりないので、実生活でそういう男性と関わりを持ったことはないし、もし友人がそういう彼氏(あるいは夫)との関係に悩んでいたら、即座に「絶対別れた方が良い!」とアドバイスすると思う…

しかし、中々別れられない…というその気持ちはものすごくよくわかるのだ…というのも、前にも言ったが(過去記事参照)NYで俳優をやる…というのは、さながら虐待男と付き合っているようなものだったりするのだ…サブミッションを無視され続け、オーディションに落ちまくり、ようやく仮押さえされたらドタキャンされ…それでも失業と失業の合間に時折訪れる仕事の機会に「やっぱり自分は芝居が好きだ」と満足してしまう…だから、何度も裏切られ幻滅させられても、たまに優しくされるとそれだけで尻尾を振って彼の元に戻ってしまう彼の姿に、何となく自分の姿を見る様な胸糞悪さを感じたのだろう…

 

ちょっと特異な世界の様にも見え、決して見て楽しくなるような映画ではないが、おそらく色々な意味で共感する人は少なからずいるのではないか…という気もする…

 

 

★過去記事★