「グレート・ギャツビー」には、ところどころ、たびたび、
ほんとうに美しい描写があって、何回も繰り返して暗記するまで口の中で転がしておきたい
箇所があります。それがどこの部分かと聞かれると あっちこっちにあって、しかもどれも
どっちが美しいという順番が付けられないので、たとえばどれと言い始められないのですが、
この、撃たれたギャツビーがマットに載ったままプールの水面をゆっくりと回りながら浮かんでいるシーンも、
美しいですよね。
夏の終わりの温度、日差し、色、風、プールの水のにおい、静けさ まるで見ているような気になります。
ついでに、近いところで、
ニックがギャツビーに最後に挨拶してギャツビーの家から 職場へ出かけて行くところ の描写、
いいですよね。
ニックはギャツビーと別れて家を出て行くのだけれど、
振り返って、ギャツビーにこう言う。
村上春樹版:p.277最後のあたりから~p.278
原書:p.154 中ほど
「誰も彼も、かすみたいなやつらだ、みんな合わせても。君一人の値打もないね」
ニックは、あとから振り返って、この言葉を言っておいて良かったと、思うのだけど、
ほんとう、読んでいる読者の私も、あー、ニックがギャツビーにそう言っておいてくれて
本当に良かった、と、ギャツビーがあんまりにもかわいそうなので、せめてニックが
そう言ってくれていたので救われる気がします。
このニックの言葉くらいから~ 「朝食をありがとう」あたりまでの描写の
村上春樹さんの翻訳、すごく丁寧に訳されているのが伝わってくる気がします。
フィッツジェラルドの想いを伝えてあげたい、と思ってすごく力が入っている気がします。