「水色のエミリア」第十四話
「エ・サマンサ・ギガレアント。わたし、どうやら人間に魔法をかけるコツを掴んだみたい」
「ほぉ・・・。それは興味深い」
「でもね。やっぱり、あんたが言うように、今の人形の体じゃ力がたりないわ。“真なる命“をちょうだい。今から、人間に魔法をかけてあげる。」
「今まで、幾人もの魔女が、人間に魔法をかけようと試みたが、どうしてもできなかった。不完全なお前に、それができるというのか・・・・・・?」
「あんたなら、一度見るだけで、やり方がわかるはずよ。ごちゃごちゃ言っていないで、今すぐ、わたしを魔女にしなさい!」
「・・・・・・。よろしいでしょう。エ・ミリア・ギガレアント、あなたに“真なる命“を与えます」
パアンッ!
甲高い破裂音がして、ひどい耳鳴りがした。耳の奥から頭の中にかけて、細く硬い針が刺さったような感覚だ。
僕を閉じ込めていた水の塊がなくなっている。体は痺れていて、うまく動けない。透明な地面に、体全体がへばりついている。
頭の奥が、大きくて重たいなにかに押さえつけられたようだ。こめかみが痙攣をやめない。吸い込む息の味が不味い。
僕は、麻酔薬を打たれたように、体の自由がじわりじわりと奪われていった。そのまま意識が閉ざされていくのを感じる。
耳から入ってくる情報は、完全になくなった。最後に残された気力を、これほどまでに重いまぶたを開けることに費やす。
光。
大きくて、強くて、温かな水色の光。その光が、もう一つの冷たい水色の光と赤い光を、優しく呑み込むのが見えた。
(エミリア・・・・・・)
僕は、気を失った。
森は静かだ。
まるで、これから始まる物語を楽しみに待っているようだ。
冬の風が、木々の間を吹き抜ける。森には、僕以外、誰もいない。
「エミリア」
何もない宙に向かって、彼女の名前を呼ぶ。
「ダイスケ」
後方からの呼びかけに、期待する気持ちが、一気に加速する。振り返ると、彼女が立っていた。
白い裸足。白い服。黒く美しい髪。鮮やかな赤い唇が、小さく笑っている。
彼女の爪の色は、僕が知っている色より薄い。
彼女は、僕が毎日想像していたとおりの姿で現れた。
四年前に比べて、背が伸びた。少女の雰囲気を残しながら、とても綺麗になっている。あの笑顔は相変わらず、僕をドキドキさせてくる。
一歩。
無意識に踏み出された足が止まらない。全速力で彼女の笑顔に向かった。彼女は、両手を大きく広げた。
(エミリア!)
力いっぱい抱き締めた彼女は、とてもしなやかで、僕の腕の中に、きれいにおさまった。僕の背中に回された細い腕が、優しく締め付けてくる。彼女の首の後ろにある黒い髪に顔を埋める。
「エミリア・・・」
「ダイスケ・・・」
耳元の声が、これが現実であることを確信させてくれる。
「ダイスケ・・・」
「ん?」
「愛してるよ」
!?
その一言は、僕の体の自由を奪ってしまった。心臓がいきなり全力で暴れだす。
「使い方、間違ってる?」
「ううん。間違っていないよ。僕も愛してる」
至近距離の笑顔に少しだけかかっていた黒い髪を除ける。長いまつ毛が閉ざされた。完璧な光景が、すぐ目の前にある。
エミリアの唇は、柔らかく甘い。そして、温かい。
二人のキスが長いのは、冬の日差しが心地良かったせいだ。
僕とエミリアは、自分たちにそう言い聞かせた。
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