ラーメンばかり食べていると野菜不足に陥るが、それを指摘すると「二郎」があると反論してくる輩の多いことよ。私はとても嘆かわしく思う。麺界を代表する「盛りの美学」が二郎以前から存在していたことを、人類は忘れてしまったのだろうか。








タンメンしゃきしゃき@錦糸町
タンメン 700円

 このタンメン、冗談抜きで、人生で食べてきたタンメンの中で一番美味いと感じた。人生で食べるタンメンの種類はたかが知れているが、それでも、今まで食べてきたタンメンの中で一番美味かった。食べている最中、箸を止めたり、スープを飲み切らなかったり、ネガティブな選択肢がひとつも浮かばなかった。

 掘っても掘っても出てくる野菜を見るだけで、満足感がある。あふれんばかりの野菜でなかなか見えないが、麺はとても太い平打ちで、ほうとうに近い。したがって啜ることは難しく、野菜とともに「食べる」形になる。文字通り、シャキシャキと。

 タンメンしゃきしゃきにもうひとつの魅力があるとすれば、それは麺にない。餃子にある。巨大な餃子は、一口食べると、旨味が頭いっぱいにはじける。ピンボールのごとく脳内を駆け回る餃子の旨さは、そのうちにタンメンの印象を外へと弾き飛ばす。



「この店、タンメンより餃子の方がうめぇよ」




Fin.
 ミシュランってあんまり馴染みがないんですが、そのミシュランで星を獲得したラーメンがあると聞いて伺いました。






鳴龍@大塚
担々麺 850円


 麺について語る前に、この店の人気ぶりについて。ミシュランガイドに載ってるもんだから、外国から来た方の数が尋常じゃない。私が行った時は日本人が3割いるかいないか。1時間並んで入店できた。ちなみにGoogleマップのQ&Aで、このラーメンがどのくらい辛いのかを答えてくれた外国の方は「スパイシーで、スパイシーで辛い」と言っていたので、私のこのラーメンへの第一印象は「とにかく辛い」だった。

 実際のところは、それほど辛くない。一般的に想像される担々麺とさほど変わりない。が、違わないというのは、辛さについてだけだ。

 担々麺のスープを飲んで「初めて飲んだ」という感覚になったのは、後にも先にもこの一杯しかないだろう。担々麺の汁は妙に塩気が効いていることが多いが、鳴龍の担々麺については違う。しょっぱすぎず、薄すぎもせず、丁度よい。そして、その風味も独特だ。たしかに担々麺の範疇にいるが、新しさの方が勝る。鼻に抜ける胡麻だけではないさまざまな風味が、食欲と好奇心をそそる。

 その風味を存分に堪能するための、具材と麺。とにかく、邪魔をしていると感じるものは一切存在しない。チャーシューも肉の臭みがなく、細麺をすすれば香りも一緒についてくる。恐らくは、一杯の世界観と完成度を高めるために費やしただろう時間は、この麺食べるために並んだ時間とは比にならないはずである。

 大塚はラーメン競争力のあるエリアで他にも魅力的にうつるラーメンが多数存在するが、時間に余裕がある際はぜひ一度ご賞味いただきたい一杯だ。
 人と会って話す仕事をしていると、二郎系を食べる機会に乏しい。というのも、あの手の麺はニンニクを入れてナンボの味なので、致命的な臭さをまとうことになるからだ。
 しかしながら、我慢に我慢を重ねて「食べたみの極致」まで辿り着いたその瞬間に食べる二郎系は、美味い。














恵比寿ブタメン@早稲田
ブタメン中


 汁なし二郎系のニューウェーブであり、癖が少なく万人ウケするであろう味わいのブタメンは、二郎系初心者にオススメしたい店のひとつだ。麺は太く、もやしキャベツはデフォルトで200g、何を言わなくとも乗せられる厚みのあるチャーシュー……極めて濃い味の油汁にそれぞれが交わり、依存性すら感じる強い刺激を脳みそへと与える。



 ブタメンでは、店員の「にんにく入れますか?」という禅問答じみた問いかけから繰り出さなければならない細かな注文コマンドは必要ない。店員が優しくトッピングについて問うてくるので、「ニンニク少なめ」とだけ言えばいい。ニンニクを増しまくるのを止める訳では決してないが、少なめにすることで後のお楽しみまでしっかり堪能できる。このニンニクは着丼時に油汁へ沈める。高次元の立体感ある味わいを、次のひと口で感じることができるからだ。



 このブタメンがユニークなのは、具材を全て食した後に、つけ麺のごとく「魚介出汁のスープ」でスープ割りを味わえるところにある。ここで先ほどの「ニンニク少なめ」が効いてくる。ニンニクが多すぎると、この最終形態の調和が乱れるからだ。




 




 己に眠る飢えた豚を飼い慣らしたか?では次に目に入れるべきは、黄色い看板とデカすぎる器だ。「いただきます」から始まる戦争で、己が豚を解き放て。