国連防災会議におけるスピーチ(邦訳要旨)原発事故と地球倫理 2015年3月16日 村田光平

始めに

 核テロの脅威の増大により世界は原発全廃が緊急の課題となったことに目覚めた。オバマ大統領の「核兵器のない世界」のヴィジョンはもはや理想ではなく、その一日も早い実現が不可欠となった。

地球倫理と人権

 今や原子力発電が後退を余儀なくされていることは明白であり、大きなリスクを孕むものと見られ出している。核技術は力の「父性文明」の下で技術の発展これによりすべての問題が解決するとの信念から生まれたものである。今日、寛容と連帯に立脚する和の「母性文明」が、技術のみに依存してリスクを犯す父性文明にとって代わることが求められる。

 世界が直面する危機の真因は倫理の欠如であるとの信念から、近年倫理問題に関するハイレヴェルの対話フォーラムとして「国連倫理サミット」の開催につき議論を重ねてきた。

 継続する地球の核化の進展に鑑みれば、未来の世代は放射能汚染の無実な犠牲者になるであろう。潜在的なものも含め将来現出する放射能汚染の犠牲者が国際組織に提訴する道を開くための措置を講ずることが是非とも必要とされる。これは深刻な人権問題である。

福島第一の現状~under controlではない

 1号機、2号機および3号機は建屋内の致死量レヴェルの放射線量のため接近できない。各格納容器は水素爆発を防ぐために必要な酸欠状態を保つために絶えず窒素を注入する必要がある。

 原子力規制委員会は処理済み汚染水(59万トンのうち24.1万トン)を海洋に放出することを考えていると伝えられる。

 今年2月24日には、高濃度の汚染水が外洋に流出していたこと、それを10カ月にわたり東電は公表せず、国にも報告していなかったことが明らかとなった。

 福島第一原発が「under control」ではないことは、誰が見ても明らかな事実である。

 このような状況下で日本政府は福島事故後に運転停止となっている原発の再稼働を精力的に推進しようとしている。

地球の安全を脅かす原発

 広島、長崎、そして福島を経験した日本にとり、民事、軍事を問わない真の地球の非核化に貢献することは歴史的役割になったといえる。

 昨年8月、ベルギーにおいてDoel-4型原子炉の水蒸気タービンが破壊活動により大きな破損を蒙っている。同月イスラエルの原子力発電所に向けてミサイルが数発発射された(ロイター電)。これらの事実だけでも430を超える原発の存在そのものが世界の最も深刻な安全保障問題であるとの主張を十分裏付けるものである。

原発は核兵器に劣らず危険である。

 福島事故により原発の存在そのものが安全保障問題であることが示された。従って、430以上の原発の安全に対する国際的管理の強化が求められる。

 福島の教訓を学び抜本的な変革を実現しない限り、世界の命運は電力会社により左右されることとなろう。

既に福島は忘れられつつあると指摘されている。

 チェルノブイリは新たな危機に直面している。崩壊しつつある石棺(シェルター)の耐用期間は2016年に終わる。国際協力により建設されつつあるシェルターは資金不足(6.15億ユーロ)のため、それまでに完成できない見通しである。ウクライナは国内の親ロシア市民との間の紛争に加え、深刻な財政危機に直面している。

IAEA改革

 国際委員会は専門家からなる中立評価委員会を設け、東京の安全性を再確認するようにとの市民からの正当な要請を無視し続けている。同委員会が前向きに対応しないのは信頼性が益々問われている日本政府の公式の主張が根拠となっている。この主張はIAEAの立場に沿うものである。

 IAEAは電力会社の利益を代表するものであり、放射能汚染の危険性と原発事故の結果を矮小化する。

 IAEAが世界中に存在する全ての核施設を管理する使命を果たしうるよう緊急に改革を実現し、その資金基盤を強化する必要がある。

 今や、日本の元総理及びスイスの元大統領がIAEAの改革を求め、現存する原発の安全に対する国際的管理の強化を主張している。

必要とされる福島危機への最大限の対応

 チェルノブイリ事故後7か月で石棺が建設された。現在、国際協力により巨大なシェルターの建設が進められている。

 現在、現場で毎日必要とされる作業員の数は7000人を超える。この人員確保に伴う困難には想像を絶するものがある。福島に関する危機感の欠如は危機の重大性とあまりにも対照的である。

 現状の悪化を阻止するために、日本は最大限の努力を傾注しなければならない。そのための東京オリンピックからの名誉ある撤退は避けられそうにない。国際オリンピック委員会により東京の安全性が事前に再確認されることなく東京オリンピックを開催するなどという無責任を日本の市民社会は許さないであろう。

国連倫理サミット

 地球的規模で倫理的思考を従来よりも飛躍的に高く評価し重視することが人権にとって最良の保証となるであろう。これにより核技術に本来備わる倫理の欠如が浮き彫りとなろう。

 適切に改革されたIAEAが日本の諸組織と連携して、福島事故への対応に、これまで以上の役割を担うことは可能であり、そうすべきであると確信する。

 多くの人々とともに、地球倫理、母性文明、そして新の核廃絶への道を開く国連倫理サミットの開催を呼びかけることとしたい。

潘基文国連事務総長からは加盟国が国連総会に提起すれば、同サミットを喜んで支持する旨の2013年3月2日付私宛書簡を受領している。

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