2006年04月29日(土曜日)は「みどりの日」。


この日の朝日朝刊「天声人語」で、長野県佐久市東部に広がる平尾山の周辺を歩いたコラムニストは、森を「心身を癒やす効果が科学的に確認できた」と今月林野庁が発表した言葉を借りて、筆を進める。


癒やし効果には、森林浴で血圧や脈拍数が下がることなどがあることを紹介しながら、「みどりの日」を前に、その森の中に身を置いてみようと思った、とする。


「明け方には無彩色だった森の色が変わったのは、山かげから日の光が差し込んだ時だった。それまでじっと息をひそめていたような木々の若芽が、一斉に輝き始めた。その無数の緑の粒々は、森の生気を表しているようだった。」

「そのうちに、木々や鳥や虫などを育む森という一つの世界を成り立たせているなにものかを畏(おそ)れる思いがわいてきた。それが、数字で計れる効果とはまた別の、森の力だろうと思った。」


ここまで書くなら、フィトンチッド(fitontsid)について書くべきだろう。


フィトンチッド(fitontsid)とはロシア語で、「樹木から放散されて周囲の微生物などを殺すはたらきをもつ物質」を意味する。


「森林の香り」 或いは 「森林の不思議」と説明する人もいるが、その本質は樹木の香気成分であるテルペン類だろうと思われる。


檜造りの家には虫がつかないのも、檜の精油にヒノキチオールなどの殺菌成分をはじめ、さまざまな成分が含まれているから。

桜餅や柏餅はフィトンチッドの抗菌・防腐効果を利用しているし、森林の中では動物が死んでも匂わないのも、フィトンチッドの抗菌・消臭効果のため。

さらに、かつて生鮮品を針葉樹の葉にのせて運んでいたのも、葉の中に防腐剤の役割を果たしてくれるものがあるから、といわれている。

このようにフィトンチッドの効用を昔の人たちはすでに発見して知っていて、それを生活の中に取り入れていた。


1930年頃、この植物の不思議な力を発見した旧ソ連のB.P.トーキン博士が、これをフィトン(植物が)チッド(殺す)と名づけたのだった。