週末、ナイスガイと共に、私はおいしいワインと焼きたてのフランスパン、朝取りの真っ赤なトマトを持参して、仙石線に乗り込んだ。まずは、乾~杯。塩釜からフェリーに乗り継ぐころには霧雨も止み、海の色はイマイチだったけど震災後初めての太平洋を望んだ。いままでは、松島海岸から眺めるだけだった浦戸諸島が目の前に迫る。瓦礫の山が至る所に見える。ここも、津波の被害に遭った。そのお陰で松島が守られたともいう。こうして、何も考えずに海を眺めてるだけで、昨日までずっと燻っていたこころの中のわだかまりがすうっと消えていく。母なる海へ感謝。まずは、石浜に降り立ち、少し丘を登ると、明治にラッコ船などで財を成し、塩釜の発展に力を尽くした白石邸跡に辿り着く。そこには、秘密の基地があった(笑)秘密だから多くは語れないが、これから先何か悲しいことや辛いことがあったら、必ずここへ訪れよう、そう心に決めた素晴らしいロケーションが広がる。私たちだけの。そこで、高級ワインをまったりと堪能して、岩場に降りる。岸壁に打ち付ける波を暫しの間見つめる。そのリズムはまるで陣痛のよう。先日立ち会った娘の出産を思い出す。あの身を拗られるような陣痛を五分おきに一日中耐えに耐える。そして、産道が出来上がるのだ。道をつくるというのは、大変な作業であると知る。母の作りし道を、必死にもがいて子は進む。共に命懸けのロードでもある。お腹に付けたモニターは、二年前、段々微弱となり力尽きていった亡き父の時のそれと異なり、時の経過と共に力強き心音へと変わる。それはまるでお腹の中から、苦闘する母へのエールのよう。そして、誕生の時は訪れる。感動と共に。私たちは、今ここを生きている…震災で亡くなった方々へ黙祷を捧げる。石浜から、船のタクシーに乗り、野々島へ。そして、寒風沢へと移動。時折晴れ間が広がった。ふと、大好きなユーミンの「残暑」のメロディが頭の中で流れる。ふとあなたの声が去年の恋が歌いながら 光りながら耳をかすめた~ 酒も回り少し記憶が薄れているけど、なんとも奥深い、いい旅であった。
翌日、喉が痛いのでタイムのお酒を作ってみた。タイムは強力な殺菌力効果で風邪やぜんそくの症状を緩和するという。七生さんのローマ人の物語の中にこう注釈があった。タイムという名前は、ギリシャ語の「勇気」に由来。ヨーロッパでは勇気、気品の象徴とされ、中世の婦人たちは、騎上のスカーフに蜂とタイムの小枝を刺しゅうして、その栄誉をたたえたといわれている、と。勇気か…。タイム酒を呑んで、今日からがんばろうっと。