「生物と無生物の間」ですっかり彼の虜となり、「生命とは動的な平衡状態にあるシステムである」と提示した「動的平衡」から二年を経て、その続編が刊行となったのでご紹介したい 「動的平衡」1・2合わせて、この一週間、私は再び彼の世界にどっぷりと浸った 書に心奪われたのは震災後久しぶりのことかもしれない 3歳よりも30歳の方が体内時計の1年が早いのは何故か・・・齢をとると1年が早く過ぎるのは分母が大きくなるからではなく、ワクワクすることが減少するのでもなく、原因は老化 タンパク質の代謝回転が遅くなり、その結果1年の感じ方は徐々に長くなっていくにもかかわらず、実際の物理的時間はいつも同じスピードでついていく、というこの生物学的なロジックに引き込まれ、健康志向の人びとが、いつしか食べること、咀嚼することを怠りサプリメントに頼る 清潔志向の人びとが、身の回りを無菌状態にすることで、外界を隔絶する これは人体というメカニズムのバランスを損なう行為なのではないのか、という日頃の小さな疑問にあらためて整理がついたようにも思う

あとがきで福岡さんは、人生についても同じ 思うようにいかないこと、取り返しのつかないこと、人生には様々な出来事が起こるけれど、それは因果的でもなく予め決定されていたことではなく、共時的で多義的な現象がたまたまそのように見えているに過ぎない 私たちの世界は原理的にはまったく自由である それは自らが選ぶことも、そのままにしておくことも可能な世界なのであり、そこに意味があると、あくまでも生物学者のお立場で人生の神髄を語った 先週から始まったNHKスペシャル「ヒューマン何故人間になれたのか」と合わせて、人間とは何か 人間を人間たらしめているものとは一体何なのかを問いながら、寒い夜、おこたに入りながら是非とも読んで頂きたい書である

もうひとつ 今週は大寒気が襲ってるが。あと数か月もすれば、里に街に桜が咲き始める 日本全国で咲く桜、「ソメイヨシノ」はクローン、というと驚くけれど 異なる系統をかけ合わせた交配種で、子孫を残す能力がほとんどない一代雑種のこと 起源は江戸時代後期 その後、明治期に入り、染井村の造園業者によって「接ぎ木」という技術で育成され、全国に広がった 日本中の、また世界各地へ贈呈されたソメイヨシノは同じDNA指紋を持つという 春になり、美しい桜を愛でたときには、この話を思い出し、江戸時代からの脈々とした生命の流れに思いを馳せたいものである 勿論、旨い酒のお共として・・・