小さい頃、母親に叱られると独り押し入れに閉じこもり許しがでるまでずっと本を読んでいた 幼いこころは本の世界を縦横無尽に旅をして、さっきまで叱られていたことなどすっかり忘れてしまっていた その癖は大人になってからも続く 今でも、家族や友人と他愛のないことで喧嘩をすれば、私の足は真っ直ぐに図書館へ 先週末にも娘と大喧嘩 私は早速本の世界に飛び込んでその怒りを忘れた 週が明けて昨晩のこと、準夜勤を終えた娘がふらり店に入ってきた 患者さんのご家族からのクレーム対応に追われたとかでぐったり疲れきった様子 「お腹すいた?何か食べて帰るかい?」 間もなく一周忌を迎える父の思い出をあれこれ語りながら呑む酒はまた格別だった 互いにタクシーに乗り込むと娘からメールが・・・この前はいろいろ言い過ぎてごめんなさい それを伝えるために行ったのにすっかり忘れた、と一行 まぁ、彼女の「忘れた」は照れ隠しだろうが、悩みのほとんどは、忘れることで解決するものだ 比叡山延暦寺の千日回峰行を2度満行した行者として知られている酒井雄哉さんは、「幸せはすべて脳の中にある」の中で、「歩行禅」を勧めていたと記憶する 歩くことであたまをからっぽにすれば、それで若返り前向きに生きるエネルギーが生まれてくる、と とはいえ、人生には限りがあるもんで、まだ自分の足で歩けるうちに、本の世界だけじゃなくて、自分が生まれ育ったこの街を、この日本を時が許す限り漫遊しようと思う 松尾芭蕉のように?それとも同時代を生きた水戸黄門一行のように?酒を片手に、ご立派な世直しの旅じゃないけど 先日御逝去された原田芳雄さん、映画「歩いても 歩いても」で、社会に取り残された父親を好演 その時のインタビューでこう語っていた 自分のからだがどんどん動かなくなり、今までできたことができなくなっていくかもしれない でも、その「できない」ってところから始まる「できること」が楽しみ とにかく衰えていくことはおもしろい 笑えてしかたないね・・・ 歳を重ねるのが愉しいと思えるようにはなったけれど、衰えていくのがおもしろいとは、今のわたしにはまだ言えない まだやりたいことが沢山あるし 今宵も、仕事を終えた後の一杯の酒、いつまでもおいしく呑み続けたいと願うばかり