前長崎市長の伊藤一長氏=当時(61)=が暴力団幹部に射殺された事件から17日で2年。友人として約40年間、伊藤氏の写真を撮り続けてきた同市の会社員嬉野純一さん(62)にとっては「最高の被写体」を失った空虚な時間だった。

 一学年上の伊藤氏と出会ったのは高校時代、市内の若者が集まるボランティア活動の研修会だった。「人のために働きたい。将来は政治家になる」と夢を語る伊藤氏に自分にないものを感じた。

 20代半ばで、県議秘書をしていた伊藤氏と街で再会。言葉通りに政治の道を歩もうとしている姿を写真に収め始めた。

 市議選挑戦、県議会質問、市長初当選‐。家族ぐるみでも付き合い、公務を離れた素顔も記録し続けた。これまで撮影した写真はゆうに500枚を超える。来県した天皇皇后両陛下や外国の外交官などと収まるショットもあれば、仲間とボウリングに興じたり舌を出しておどけたりした1枚もある。友人として、最も古い支持者として、「自分が撮らずに誰が撮るか」と追い続けてきたさまざまな表情。もうそこに「新たな1枚」は加わらない。

 昨年2月には撮りためた写真を集めた展示会を市内で開催、5日間で約1000人を集めた。だが、2年が過ぎ、事件が話題に上ることはほとんど無くなり、事件現場で手を合わせる人も見かけなくなった。盛り上がったかに見えた暴力団や銃犯罪へ立ち向かう機運さえ弱まっているように感じる。

 「記憶が薄れていくのは止められないにしても、誰かが語り継がなくてはいけない」。事件を思い出せば涙があふれ、普段はアルバムも開かない。しかし、この喪失感を埋めてくれるのも、印画紙に焼き付けた伊藤氏の情熱だ。現在、市内で開催中の伊藤氏の足跡を振り返る企画展にも写真を提供している。

 「一長さんは『核のない世界』という夢を追い続け、私はそんな一長さんを追い続けてきた。あの事件が忘れられないよう、この写真を使って非暴力を訴えていきたい」