現役力士の大麻問題で角界が大騒動になったのは記憶に新しい。東京地裁でも、大麻取締法違反で法廷に立つ被告は後を絶たない。同法違反の罪に問われた男性被告(46)の初公判を18日、東京地裁で傍聴した。

 丸刈りの被告は保釈されており、グレーのスーツ姿で長身だった。

 起訴状によると、被告は7月17日、東京・銀座に停車した乗用車内で、乾燥大麻約1・77グラムを所持していた。また、7月31日には、東京都練馬区の自宅で、乾燥大麻約0・684グラムを所持していた。罪状認否で被告は、起訴事実を認めた。

 被告は銀座で職務質問を受けたことがきっかけで逮捕されたが、その際、車内からは大量の注射器も発見された。

 検察官「車内に注射器があったのはなぜ?」
 被告「在庫として。安く売っているところが近くにあって…」

 苦しい言い訳だった。被告自身も苦笑しながら答えていた。

 検察官「何に使うつもりだった?」

 しばらく被告は考えをめぐらせている様子だったが、観念したように言った。

 被告「たまに覚醒(かくせい)剤をやります」

 検察官「たまに使うためなら、あんなにいらないのでは?」
 被告「使い捨てなので、多いとは思わない」

 続いて裁判官が質問する。


裁判官「どうしてバカなこと(薬物)をやめられないの?」
 被告「離婚するとこういう事態になる。1人の生活なので、つい寂しさと環境から。今後は家族と同居するので、しません」

 裁判官「世の中、離婚した人がすべて薬をするわけじゃないでしょ。あなたの問題だと、わからない?」
 被告「わかります」

 被告の言い訳を裁判官は徹底的に論破していった。

 裁判官「ヤクザの運転手をなぜやっていた?」
 被告「仕事が暇だったので、そっちに流れた」

 裁判官「世の中の人は、暇でもヤクザの運転手をしませんよ。その辺の分別、ないの?」
 被告「やっぱり心が弱かったと思う」

 裁判官の正論に、被告は自分の過ちをただ認めるしかなかった。

 被告人質問の前、情状証人として被告の母親が証言台に立ち、今後の監督を約束した。この点も、裁判官は被告に問いただした。

 裁判官「もう46(歳)だっけ? 人生の半分が終わってんだよ。前半はろくなことしてないじゃない」
 被告「はい」

 裁判官「お母さんはいくつ?」
 被告「72です」

 裁判官「本当だったら、あなたがお母さんの世話をしないといけないわけでしょ」
 被告「はい」

 裁判官「あなたの生き方は、すべての面で甘すぎますよ」
 被告「はい」

 裁判官「お父さんはいくつだ?」
 被告「78です」

 裁判官「お父さんもお母さんも、そんなに先があるわけじゃないよ。生きている内に『産んでよかった』という気持ちにさせてやりなさいよ。わかった?」
 被告「はい」

 「父、母からの温かい支援があったので、2度としないと約束できます」。被告は最後にこう誓った。

 だが、「2度としない」という誓いの言葉だけでなく、薬物依存者の自助グループに参加するなど、薬物依存を根本的に治す方策を示してほしかった。

 検察側は「大麻以外にも違法薬物と親和性がある」として、懲役8月を求刑した。判決は9月29日に言い渡される。