慶応大、同志社大、法政大…。名門大学の学生が大麻(マリフアナ)を所持したとして次々と摘発されている。大麻が若者に蔓延する背景には、海外通販で大麻の種を合法的に入手できる現行法の“抜け穴”などにより、罪悪感の低下があるようだ。一方、大麻で摘発され、犯罪者に転落した学生は多くが退学に追い込まれる。法廷で“高偏差値学生”の末路を見ると、「大麻なんかに手を出したらどうなるか」という“想像力”の欠如の大きさに唖然とせざるを得ない。

■「法律おかしい」「マスコミは騒ぎすぎ」…学生は言いたい放題

 「友達の家に遊びに行って、酒でテンションあがったときに勧められたらみんな軽く吸っちゃうでしょ。副作用ないことがみんな分かってるし、興味はあるから…」

 大麻を所持したとして、法政大の学生5人が逮捕されていたことが判明した10月上旬。取材で東京都町田市の多摩キャンパスを訪れた本紙の記者に対し、4年生の男子学生(23)は堂々と持論をぶつけてきた。

 「大麻って、外国では合法でしょう。タバコより身体に悪くないらしいし、日本の法律もおかしい。マスコミも騒ぎすぎ」

 大麻を実際に吸った経験の有無は確認できなかったが、大麻の依存性については様々な研究があり、「副作用がない」「タバコより体に悪くない」という認識は甘い。とはいえ、大麻への抵抗感や、遵法意識が低い学生が相当数いることが想定される“本音”だった。

 もっとも、大多数の学生が今回の騒動を迷惑がっているのは間違いない。逮捕された5人は、多摩キャンパスの図書館や会議室の個室で、大麻をたばこの巻紙で巻く「ジョイント」と呼ばれる方法で吸引していた。

 予約すればだれでも使えるという図書館の個室ドアには窓もあり、学生たちは「あんなところでやっているとは思わなかった」と口をそろえる。3年生の男子学生(22)は「法政大生の就職活動にも悪いイメージがつきそうで困る」と迷惑そうに話した。

 また、別の男子学生(20)は、今回摘発された学生が「付属校あがり」で、遊び慣れているタイプだったことを指摘し、今回の事件について独自の分析をした。

 「違う付属校出身者と大学で出会うと、見えの張り合いになるやつらがいる。『どこで遊んだ』とか、『芸能人とコンパやった』とか。そういうことで、遊びがエスカレートすることがあるのかも…」

 一方、関西大学では今春、大阪府吹田市の千里山キャンパスの正門が24時間開放されていることを利用し、工学部4年の男子学生が夜間に構内の中庭にある芝生広場で大麻を密売していたことが明らかになっている。堂々とした手口からは、“大麻汚染”がどんどん身近に迫っていることを感じさせる。

 ■高すぎる“授業料

 裁判官「福沢諭吉の建学の精神は何ですか」

 被告「勉学に励むことです…」

 福沢諭吉は、言わずと知れた慶応大(慶應義塾)の創設者。経済学部1年の被告に対し、一流大学に通う「自覚」を思い起こさせるような異例の質問が投げかけられたのは、5日に横浜地裁川崎支部で行われた中村友士郎被告(20)の大麻所持事件の即決裁判だった。

 加登屋健治裁判官は「名門大学の権威と信頼に打撃を与えた責任は重い」として中村被告に懲役6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。その後、「被告は事件で高い授業料を払った。人は誰でも失敗をするが、それをどう生かすかが大切」と説諭。中村被告は「申し訳ありません」とうなだれた。

 大麻は横浜市の慶応大日吉キャンパスで商学部2年の内田浩太郎被告(21)から7000円で購入したとされた。

 一方、自宅に大麻草を隠し持っていた罪に問われた同志社大商学部4年、西田千乃被告(22)に対する今月13日の判決公判。神戸地裁の森岡孝介裁判長は「大麻の作用におぼれて多数回使用しており、依存しているのは明らか」とし、懲役6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。

 公判では、大麻が大学の壁を越えてやり取りされていた実態が浮かび上がった。西田被告が一線を越えたきっかけは、3年生だった平成18年夏、関西学院大の男子学生(22)=今年9月に自主退学=に勧められたことだった。

 「1人より友達と一緒に吸う方が楽しかった」

 西田被告はそう説明した。証人出廷した父親が「もう少し話していればよかったと思います」と話して涙ぐむと、西田被告が同時に目頭を押さえる場面もあった。

 そのうえで西田被告は法廷で、再起への決意をこう述べた。

 「大麻にかかわった人たちと関係を絶つため、電話番号も、メールアドレスも変えます。父親と一緒にどこか離れたところに住んで、真面目に、まっとうに生活したい」

 ■「発芽は犯罪」のはずが…うたい文句は「手間いらずでよく育つ」

 若者の“大麻人気”については、「種が簡単に手に入るから」という理由がよく挙げられる。本当だろうか。

 試しにインターネットで検索してみると、あっけなく大麻の種の販売サイトが見つかった。

 《マリファナの種をオランダからあなたに!》

 そう銘打たれたそのサイトは、現地の複数の店の「商品」が通信販売で買える仕組みになっている。

 こうしたサイトが堂々と存在しているのは、大麻の種の「輸入」や「所持」が日本では合法だからだ。

 だが、無許可で種を発芽させて育てる「栽培」は大麻取締法違反に該当し、「7年以下の懲役」となる。営利目的の場合はさらに重くなる。

 サイトにも、「日本の法律では大麻栽培免許を所持しない者が発芽させると犯罪になります」「大麻の種はコレクション用品として販売しております」と小さな字で注意書きがある。だが、植物の小さい種を、わざわざ輸入してまで鑑賞する物好きがいるだろうか。

 前述のサイトで購入できる大麻の種は数十種類。植物の種類ごとに詳細な特徴が書かれている。

 《かなり長い持続的な強力なハイ》

 《フルーティーな味と香り》

 《手間いらずでよく育つので初心者にお勧め》

 《3メートルまで成長》

 《収穫期9~10月》

 本来の目的が栽培後の吸引であることを強く感じさせる。値段はおおむね、送料別で10粒5000~7000円ぐらいで、10粒4万円程度の高級品もあるという。

 別のサイトでは栽培方法を紹介していた。光の当て方や土壌の作り方まで、手順が詳細に解説されている。

 こうした状況を見れば、「何かがおかしい」とだれもが感じるだろう。

 栽培により捜査機関に摘発されるケースは、乾燥大麻などの「既製品」を購入するケースに比べれば少ないが、こうした状況が犯罪に走る垣根を低くしているのは間違いない。

 昨年11月に発覚した関東学院大ラグビー部員の事件では、2人が大麻栽培の現行犯で神奈川県警に逮捕されたことが摘発の契機になった。その後、ほかの部員12人も大麻の吸引を認めた。

 ネットのほか、都内の繁華街などでも種を売る店がある。警視庁の薬物捜査関係者は「種が野放しでは摘発が追いつかない。法律で取り締まるなど、新たな手だてが必要だ」と話す。

 ■大麻との出合いは…“留学生”“海外旅行”“野外イベント”

 警察庁のまとめによると、大麻の摘発件数は年々増加する傾向にある。今年は6月までに約1200人が摘発されており、10~20歳代が半数以上を占める。ほかの薬物に比べて大学生が目立つのが特徴で、警視庁が1~8月に摘発した752人をみると、学生は9.2%を占める。

 なぜキャンパスに大麻が広がっているのか。警視庁幹部は、過去の摘発例をもとに、大学生が大麻を始めるきっかけになる「接点」がさまざまであることを指摘する。

 1つは、留学生などの外国人が大麻使用の一線を越えさせる“伝道師”となり、大学生に口コミなどで大麻が広がっていくパターンがみられることだという。

 また、「『レイブ』と呼ばれる音楽系の野外イベントなどで大麻が使われることが当たり前になってきており、若者に抵抗感が薄くなっているといった要因や、インドなどの海外旅行の際に遊び感覚で大麻吸引を経験した学生が、継続して手を出している可能性も指摘できる」という。

 新しいことを「吸収」しながら、社会人への準備期間を過ごす大学時代。だが、大枚をはたいて有名大学に送り出した息子や娘がキャンパスで覚えることが大麻の「吸引」だったとしたら、両親の無念はきわまりない。

 慶応大の事件では、発覚直後に会見した学校関係者が「学生の良識を信じていた」と述べた。しかし、もはや性善説も限界を感じさせる状況だ。

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