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夕立ごろのお化け

 


hakogame

 かみなりの音が、やっと遠くへ行ってくれました。
 こうちゃんは夕立にあって、古ぼけたお店の軒先で雨宿りしていたのでした。さあ、急いで帰らなくてはいけません。こうちゃんは、雨宿りさせてもらったお礼に、手を合わせて頭をぺっくらと下げました。
 そのとき、あれ? 今まで気がつかなかったけれど、お店の前にガチャガチャがありました。コインを入れて、ガチャガチャ回すと、カプセルに面白いのが一つはいっているアレです。(おかしいなあ。これ、あったかなあ?)
 見てみると、どうやら「すっごいゾ! 妖怪マニア」というシリーズのようです。こーちゃんは、妖怪図鑑にでてくる妖怪なら空でいえるほどの妖怪つうですもの、これはやらずにはいられません。しかも、いまどき珍しく、一回十円です!
 十円を入れて、ガチャガチャガチャ。ぼっこんとカプセルがでてきたので、どうれと取り出してみましたが、中には、何もはいっていません。
 そのとき、とつぜん「ほほう。スペシャルシークレットを出しおったのー」とだみ声がしました。お店の古い木の扉がすこし開いて、そこから声がしたのでした。
「どうれ、景品をやるから、こっちサおいで」というのと同時に、こうちゃんは首ねっコをつかまれて、あっという間にお店の中にいれられてしまいました。
 なんというお店でしょう! 灯りといえば奥の方にちょうちんが一つあるきり。いったいいつの頃のものか、やたら古ぼけたおもちゃや人形などが、たくさん、くろぐろと静まりかえっているのでした。
「関心しておるようじゃな。なに、それが怪獣ドドンドに似ているだと? そんなもんじゃね。もぅっとずぅっと古いものじゃ!」
 こうちゃんは、ふるえだしました。だって、そのダミ声のお店の人は、何もいわないのにこうちゃんが思っていることを言い当てたからです。
「ふひひひひ。さー、景品だぞー」そういって、お店の人がロウソクつけるとそこには・・・・。
 なんと、手が一本、足が一本、目が一つ。でも、全体としては、大きななすびが座っています! こうちゃんは、つくづくソレを眺めましたら、急に元気になってきました。
「あの、あなたみたいのは、妖怪図鑑にのってませんよ」
「何? そ、そ、そんなはずあるか。わしはなぁ、昔から人がこわがってきた・・」
 ソレは、しどろもどろになると、シワシワっとして泣き出しました。
「ええよええよ。もう、帰ってくりょ。わしのことなんか、ほっときゃいいじゃあ」と、泣きながら一つの手をばたばたさせました。こうちゃんは、そのお化けがかわいそうになりました。すると、
「そっか? おまえさん、いいやっちゃ。じゃ、ちょっくら待っとけ」と、お化けは急に元気になったかと思うと、奥へ飛んでいきました。しばらくこうちゃんは待ちぼうけです。
「あのー、ボク、お家へ帰らないといけないんですけど・・」
「あー、もうチーっとじゃ。お待ち」
 やがて、妖怪がずるずると何かひきずってきました。
「足や手が一本だとのぅ、熱いものはこうして引くにかぎる」なんていいながら、おわんをだしました。「まあ、おひとつ。これが、景品じゃぁ」
 それはなんと、こうちゃんが大っきらいな「おみそしる」でした。
「あ。あ。せっかく、こんなに一本の手でつくったのを、いやだーと思うたなー!」と、妖怪は心を読んで、またまた泣き出しました。こうちゃんは、しかたなく、中の具を一つ口にいれてみました。(んん。けっこうおいしい)。
「そーじゃろー、そーじゃろー。そりゃあ、おなすじゃあ。なすびのみそしるじゃあ」
 もう、妖怪は目をでんぐり返して、よろこんでいます。
 こうちゃんは、こんなにちょっとしか具がはいっていないおみそしるは初めて。それに、たった一種類の具がなすびで、これ以上ないというほどうすく切ってあります。なすびを、すこしづつ食べて、おしるを飲んで、またちょっとづつなすびを食べました。なんだかとってもあったかくなって、それにはじめて、本当におみそしるがおいしいのでした。
「おいしいですよ、これ」
「そーかそーか。おいしいか。ああ、よかった」
 こうちゃんは、ぴょんぴょんはねてよろこんでいる、このお化けが好きになりました。そして、
「あなたに名前をつけてあげたいなぁ。妖怪、なすびの名人なんて・・」
「なすびの名人! それいいじゃあ! それいいじゃあ!」
 はっ、と気がつくと、まわりでセミがうなるほど鳴いています。こうちゃんはお店の外に立っていて、あたりは買い物をする人が歩いていました。振り返ってみても、そこにはガチャガチャはありませんでしたし、お店の扉も開くようには見えませんでした。
 そのとき、お店の屋根からカラスが顔をだして、ぐわぁと鳴きました。
 こうちゃんは、ばたばたかけってお家のほうへ帰りました。

(おしまい)