(出版)筑摩書房2007年(1986年)
(著者)外山滋比古:御茶ノ水女子大学名誉教授
(宣伝文)
この本の宣伝タイトルには、今も書店で“東大、京大で一位の売れ行き”とあります。
この本は、いわば、“論文を書くためのヒント”とも言うべきものです。
(読むことと、書くこと)
いわゆる読むこと=勉強と、論文やエッセーを書くこととはかなり違う作業です。それは実際にものを書いた経験がある人には痛いほどわかることです。大学生だけでなく、大学の研究者や教授なども同様です。
一般に読むことと書くことは、大いに相関関係がありそうです。しかし、勉強したり本を読んだりする行為と、新しいことを書くことは、必ずしも一致しません。両者は、似て非なるものなのです。多くの人は、その区別がつきません。私たちは、本を読んで著者の言うことが理解できれば、論文や本が書けるものだと勘違いしてしまうものなのです。百冊も本を読めば、1冊くらいはすぐに書けるだろうと普通は考えます。
ところがそうではないのです。論文や本は、新しいこと、オリジナルなことを書かなくてはいけないのです。読むことは、そのオリジナルなことを書くためのヒントの一つにすぎません。そこで、この著者の出番が出てくるのです。
(内容)
彼は、勉強をグライダー飛行と呼びます。つまり、グライダーは誰かに引っ張ってもらわないと飛べないのです。
学校はそのグライダー飛行の訓練場だというのです。これに対して、論文を書くのに必要な能力は、飛行機の飛行能力だというのです。飛行能力はまた、学校では教えないことだというのです。だから、成績の良い学生ほどその違いにとまどうというのです。
彼の本でいう、書くためのヒントは次のようなものです。
1文学研究でいえば、感心するところ、違和感をいだくところ、わからない部分などを書き抜いて、それを時間をかけて醗酵させる。
2テーマは、2つもしくは3つ持つ
3諸説を包括するやりかたもある
4異質な考え方を結合させる
5没個性的触媒
6アナロジー(類推)
7脱線、周辺から攻める方法
その他にも、スクラップのやりかたやカードやノートの取り方、睡眠のとりかた、忘れることの効用、知識を捨てること、人にしゃべること、などなど論文を書くための色々なヒントが書かれています。そして、最終的にはとにかく書くことが必要だと説いています。
(私の感想)
この本には一つの欠落部分があります。それは次のようなことです。一般に論文とかエッセーを書く場合に、大きくいって二通りのやりかたがあります。体験から材料を得て書く場合と、書物からヒントを得て書く場合です。彼のこの本は、あくまでも後者の場合で、本を読んで書く学生や、学者とか研究者の人たちが書くためのヒントです。
例えばO氏の本の多くは、前者であり、I氏の著書のほとんどは後者です。二人の違いは大きく、O氏の本にはほとんど参考書や照会する本が書かれていません。彼は自分の体験と、自分なりの思考から本を書いています。
それに反して、Iの著書は、大袈裟にいうと三行ごとに引用書が出てきます。ものすごく勉強しているのがわかります。しかし、氏の主張はその引用に埋もれてしまい、あまりはっきりとわかりません。
外山氏の例えでいうと、同じ本でも、O氏の本は強力なエンジンを備えた飛行機であり、I氏の本はグライダーに近い秀才の書いた本であることがわかります。
いずれにせよ、外山氏のこの本は、彼の読みかつ考えるという行為から得たヒントが豊富であるところにその特徴があります。