2022年2月14日


週末の3連休。


ルルは100Km離れた、妻の実家で過ごした。


妻の両親には孫がルルを含めて6人居る。

とても孫煩悩で、今回ルルの

養子縁組が決まった際も、とても喜んでくれた。


ルルも『お爺ちゃん、お婆ちゃん』と

甘えて甘えて…


血の繋がりって必要なのか?


そんな風に感じてしまう。


------------------------------------------


ルルが我家に来てから、はや14ヶ月。


初めて会った時は、

可愛らしさ全開!!


誰に会ってもニッコリ。

4歳とは思えない優しい言葉と気遣い。


でもそれは『表の顔』だった。

誰に対しても、自分の『素』は見せない。


『よそ行きの顔』だ。


自分の感情を表現しない。

顔に出さない。


大人のルールを守り、


自分は『良い子』だ!


と誰からも思わせる。


『よそ行きの顔』で自分を守っていたのである。


そんな顔も時間と共に崩れて行く。


『よそ行きの顔』とは

常に自分を押し殺すため、

気が疲れてしまうからだ。


本性の自分では無い

『よそ行きの顔』…つまり『ウソの自分』


『よそ行き』と言う名の重い鎧を

毎日毎日着けて行く事が出来なくなった時、


『爆発』が生まれる。


それがボクが遭遇した

『魔王ルル』である。


魔王ルルは、委託して直ぐに現れた。


正式に養育里親として委託される10日前から

ルルは我家で生活を共にしていた。


ボク:今日から養子施設では無く、ウチで

一緒に暮らすんだよ。


そう言った次の日から、

直ぐに鎧を脱ぎ捨て、


魔王…野獣…悪魔…鬼…


普段の可愛らしい二重瞼

優しく微笑むルルでは無い。


顔付きが別人の様になり、

悪魔が取り憑いたのでは無いか?と

本当に心配する程の変わり様。


眼光は鋭く吊り上り

敵を食い殺すかの様に歯を食いしばり

唇を横一杯広げ、


まさに『鬼の形相』だ!!


そしてそこから


ウーーーー!

ウゥーーー!


と言う、


狼が獲物を威嚇する様な低い声。

狼が獲物を喰い殺す様な目付き。

狼が獲物に威圧感を与える様な形相。


彼は本当にボクと同じ人間なのか?

何かに取り憑かれているのではないか?


除霊が必要なのではないか?


本気で考えた事もあった。


この時の様子をスマホ動画で記録している。


ルルにその動画を最近見せた事がある。


ボク:この時の事って憶えてる?

ルル:覚えてない。これっていつの話?


ルルは動画で見る過去の自分に

『驚き』を隠せない様子だった。



重い鎧を外し、

『素の自分』を見せる前の防御態勢だったの

かも知れない。


ボクには必要以上に近づくな!!

と言う。



この『防御態勢』は7ヶ月続いた。


何かを言う度に過剰に反応し、

自分の着る服をブンブン振り回し、

机や壁、ドアや窓…

色んな物を叩き回し、

椅子や小物などを倒したり

そしてボクにも手を出してくる…


その様子を養護施設職員は

『お試し行動』だと判断した。


共に生活する里親・新しい大人への

愛情度合を探る為なのだろうか?


しかしボクには

ルルは『無意識』で行動していると感じた。


大人を試してやろう!

この位やったらどう出るのか?

どんな対応をするんだ?

ほら!何か言ってみろよ!!


そんな感情を乗せて

『お試し行動』をしているのでは無いと感じた。


脳から指令を受けて、

ただ感情のままに『無』の状態で…

それとも『夢の中』なのか?


暴れている時間は

『無意識状態』ではないだろうか?


そう!


そもそもこの、

一般に言われる『お試し期間中』に

『感情』と言う物を持ち合わせていない。


暴れて…

唸って…

大きい声で叫んで…

物に八つ当たりをして…


正に野獣である。


沢山の仲間が居た世界

沢山の大人が居た世界

代わる代わる自分の遊び相手が居た世界から


自分一人だけの空間に解き放された


無防備な野獣。



脳内はパニック状態。


これまでは様々な大人が居てくれた。

時間通りにオヤツを食べれた。

食べたく無いものは食べなくて良かった。

ワガママを言うと色んな大人が宥めてくれた。


でもそれは愛情では無い。

その大人は自分だけに向けられず、

誰に対しても同様の対応だった。


自分だけを見て欲しい!!


そんな欲望を常に持ち続けていた。

自分だけのパパ・ママが欲しい!!


いつも甘えられる

自分の事だけを見てくれる。


いつも一緒に居てくれる

抱きしめてくれる。


そんな大人を常に切望し

ずっと待ち続けていたとボクは感じる。


それが野獣となって爆発し、

『無』のままに身体行動として


自分を表現する。


それを頭の良い大人達が

『お試し行動』と言う言葉で『定義』したと

ボクは感じている。


その野獣の姿は

ボクにだけ向けられていた。


妻には終始『よそ行きの顔』。


週末…妻と一緒にいる時は

『仮面を付けていた』


週明け…妻が仕事に行くと

仮面を外し『野獣化』する。



そんな…

野獣期間は7ヶ月続いた。



徐々に身体全体で表現する

『野獣』は鎮静化し


次に現れたのは『無感情』である。



乳児院や養子施設で育った子供達を


『社会的養護下の子供』


と定義されているが、

彼らの多くは感情が乏しいと感じる。


前述したが


多くの大人達に囲まれて、

多くの子供達との共同生活で、


自分の内面にある

『安全地帯』を作り、

感情を表に出さない生活が楽で、

平和的だと感じている様である。


感情的な態度で表すと

多くの大人や子供達から

必要以上に心配の顔や妬まれの顔、

冷たい視線に、困った顔をされる。


感情は表に出しては行けないんだ。


そう感じているのかも知れない。


野獣の後に襲って来た『無感情』


今度はココで

『感情』の植え付けを行うのだった。



嫌な時は『嫌だ』と言うんだよ!


嬉しい時は『嬉しい』って顔をニコニコさせるんだよ。


泣きたい時は泣いて良いんだよ!


寂しい時は『寂しい』って言って、抱きついて良いんだよ。


怒りたい時は『怒って良い』!

でも物を叩いたり、投げたりするのは止めて。


感情の無いロボットのマイクロチップに

一つ一つ丁寧に、動作を交えて

インプットする作業の如く。


大人がして欲しい行動を指示する度に

固まり。フリーズ。

能面の様な『無表情』。


その度に繰り返し繰り返し…

同じ事を、同じ口調で、

ユックリとじっくりと…毎日毎日。


感情が生まれてくると

時には暴発し、大きな声で叫ぶ!!


その時は


妻:スゴイスゴイ!!今、怒れる表現をしたね!!そおそお!!怒って良いんだよ!!



自分のやりたい事が出来ずに

ボク達大人からダメと言われると

涙を一杯に溜めて声を出さずに泣き出す時も


妻:そおそお!!泣いて良いんだよ!!

ほらほら!!我慢しないで!!大きな声で泣いてごらん!!


毎日毎日、自己表現をする度に



褒めて褒めて褒めまくる!!! 



すると徐々に喜怒哀楽が生まれ

人間らしい子供らしい!


生きた表情が顔を出し始めた!!


『感情』の構築をする事…約4ヶ月。


今のルルが誕生したのだった。



里親研修に行くと


最初に『よそ行きの顔』

それから『お試し行動』

最後に『赤ちゃん返り』


があると説明を受ける。


しかし…子供はロボットではない。

人それぞれ感情は異なるし、

大人の感じ方も異なる。


『赤ちゃん返り』をしないと

親子形成は出来ないのか?


そんな事はないと思う。


大人の定義に当て嵌めると、


『野獣期間』は『お試し行動』

『無感情期間』は『赤ちゃん返り』


だったのか?


『無感情期間』で『育て直し』を図り、

今やっと…普通の子供になった?


ボクは立派な大人では無い。

立派な里親でも無いし

立派な父親でも無い。


しかし


一人の子の父である。


彼の人生を託された。

彼を守っていかなくてはいけない。


それが


『父になる』と言う事だ。


これから


カラダが大人に変化して行き

思春期になり

自分の事を見つめ直す

自分とは何なのか?


深く考える年代となる。


そんな時、

自分は彼に何を言えるのだろう。


ボクは良い父親ではない。


しかし父となった。


彼のこれからを支えてあげたい。