2021年2月23日
月に一度、ボクは100Km離れた実家に顔を出す。
83歳の父と、82歳の母
カラダが言う事を聞かず、年々動けなくなっていく両親。運転免許証は返納した事や、父が腰や膝に痛みがある事もあり、家から一歩も外に出ない事もあるそうだ。
月に一度、実家に帰ると雑用を頼まれる。
銀行に振込に行きたい
化粧品を買いに行きたい
日用品を買いに行きたい
時計の電池を替えておくれ
電灯のライトを替えて…
そんな雑用をする為に100Km離れた実家へ行っている。
2月23日も前日に『明日行くね!』と母に電話。
母:あー、来て来て!何も頼む事はないけど遊びにおいで!
ところが実家に行くと、母は寝込んでいた。
朝、いつもの様に起きると、頭がクラクラし、何かに捕まらないと立ち続けられない。御飯も食べれない…と言い寝込んでいた。
そして突然、弱々しい声で
母:わたし…もぅ…ダメかもしれない…
父・ボク:え?
父:何も食べてないから力が出ないだけだ!何か食べろ!
母:(無言で手を振る『要らない』という事の様だ)
ボクはこんな母を初めて見た。
一緒にいたルルは、周りの状況を全く理解してない様で、40年前にボクが遊んでいた『チョロQ』を走らせて遊んでいる。
ボクは兄にLINEでSOS🆘を送った
ボク:お母さんの体調が物凄く悪いよ。
『もぉダメかも知れない』って!!
兄ちゃん助けてー!!
現在テレワーク中で、自宅で仕事をしている兄だが、このメッセージに気付いたのは送って1時間後であった。
兄:何事?どういう意味?
ボク:朝から寝込んでて、御飯も食べられないんだって
兄:イヤイヤ!何か食べさせろ!
ボク:本人が食べたくない!って言うのに何を食べさせるのよ!
母は横になったまま夕方になる。
この日は天皇誕生日。
病院はお休みであったが、父は近くにある病院へ電話をしてみた。
父:妻の体調が悪く、入院とか出来ませんか?
病院:どんな症状ですか?
父:朝起きると頭がクラクラして、起き上がれないと言い、ずっと寝たままなんです。
病院:食欲はありますか?
父:絞ったミカンジュースと、野菜ジュースを300cc程飲んで、50g程の御飯を食べました。
病院:今日は満室で入院は出来ませんが、明日なら大丈夫です。明日の朝8時に病院へお越しください
父:分かりました
そんな簡単に入院とか出来るのか?
さすが田舎の病院
なんて思ったが、弱々しい母を目の前で見ていながら、何も出来ないボクは、病院の有り難さを心から感謝した。
母は夜7時になると、気分が落ち着いて来たのか
母:私、どうしてあんな事言ったのかしら
ボク:私、もぅダメかも知れないってやつ?
母:こんな事って初めてよ!朝起きたらアタマがクラクラして、目眩とかじゃ無くて、脳が揺れる感じ。
ボク:メニエール病みたいな症状?
母:あれは世界が廻るとか言うんでしょ?動悸があるとかって。そんな感じじゃなかった。コレが死ぬって事なのかって、本当にそぉ思ったのよ。
ゴメンね。ついあんな事を言ってしまった。
ボク:兄ちゃんが明日来るって!テレワーク中で正月からずっと家で仕事してるらしい。ホントに仕事してんのかな?
ルルは?と言うと飽きずにチョロQで遊んでいる
4歳の子供に周囲の状況を理解する事は難しいのだろう。母にコレ見て!っとアンパンマンの塗り絵を誇らしげに見せている。
2021年2月24日
ボクは母を連れて、歩けば5分で行ける病院へクルマで送った。
母は昨日とは違い、立ち上がる事も歩く事も出来ていた。
ボク:それだけ歩けて入院する必要ある?
母:ご飯が食べれないし寝れないのよ。昨晩は10分しか寝れなかった。
ボク:睡眠導入剤飲んでるんでしょ?飲み過ぎて効かないんでしょ!
母:おっしゃる通り!でも飲まないと全く寝れないのよ。
病院へ行くと、CTや胸のレントゲン、尿検査をして、点滴を2時間受けることになった。
ボクは一度家に戻り、母からの電話を待つ事にした。
兄が帰って来た。会うのは1年ぶり。
大手一流企業で車の設計をしているのに、相変わらず派手な出立。髪型は少し茶髪でパーマをかけ、オシャレと言うか派手というか?
デカイ会社の社員としては目立ち過ぎだろ!
と言いたくなる。
兄はオープンカーに乗っていた。
自分の会社の車ではなく、他社製品…BMWである。自分の会社のクルマに乗れよ!と言うと、カッコ悪いから嫌だ!!って…じゃあカッコイイ車を作りなさいよ…
ボク:ルル!この兄ちゃん!オープンカーに乗ってるよ!
ほら!屋根が開く車だよ!乗せて貰ったら?
ルル:乗りたい!!
人見知りのルルだが、10分ほどで兄と打ち解けた。ルル曰く、ボクと同じ香りがするって。動物的カンなのか?
母は点滴で栄養補給が出来たのか?
嘘の様に元気になり、御飯の支度や掃除に洗濯、昨日の『ダメかも知れない』は何だったのか?首を傾げるほどになった。
ルルは…と言うと、兄のオープンカーでお出掛けをして行った。2月のオープンカー…寒くないか?なんて思ったが、
自動で屋根が開くクルマに目がテン。
ルル:おーーーー!!!カッコイイ!!!
大はしゃぎである。
2021年2月25日
母も体調が改善し、今日は帰ろうかと思いきや、またまた母の体調が崩れる。
母:昨日は凄く調子が良かったのに、どうして?
ボク:言葉が悪いけど『栄養失調』じゃないの?
昨日は点滴で栄養補給したから元気になっただけなんじゃ?
母:でも病院でCTから尿検査とか血液検査もしたけど、何も言われなかったわよ。ビタミンB12の薬も飲んでるし。
ボク:ビタミン剤とかじゃ無くて、食べる物を食べないから、力が出ないんじゃない?御飯だって量が少ないんでしょ?
母:もぅね。何を作っても、何を食べても、全く美味しいって感じないのよ。ただ義務で御飯を食べるだけ。食べないとダメだから食べるだけで、全く美味しいって思わないのよ。
今日、10日分の食糧を宅配してくれる日だから、冷蔵庫に入れる物とか仕分してよ。ワタシ今日もあんまり動けないから。
ボク:うん。良いよ。
母:それと10日分って言っても2人で10日分だから、アナタ達のが無いのよね。今日の夕飯はサーロインステーキ!!自分達のステーキも買っておいで!
ルルは?と言うと…
退屈だから何かオモチャ買ってーと叫ぶ!
大人の事情で勾留されているので仕方が無いと、オモチャ屋に連れて行き、好きな物選んで来て!と手を離す
30分してもナカナカ帰って来ない
何処に居るのか?と探しに行くと、仮面ライダーの変身グッズの前にいた。
ルル:この仮面ライダーに変身するのと、仮面ライダーが持ってる剣を買ったらダメよね?
ボク:コレって音が出るやつじゃ無いの?
(箱に書いている内容を読む)あー、コレは電子音が鳴るやつだよね?ダメでしょー!
どうしたら僕たちは爺ちゃん婆ちゃんの家に泊まってるのか理解出来る?
ルル:分かるよ!婆ちゃんが具合が悪いからでしょ?そのくらい分かるよ
ボク:分かるんだ!
婆ちゃんが具合が悪くて立ち上がる事も出来なくて、寝ていたいのに、ルルがピコピコする様な音を立てるオモチャで遊んだら、間違いなくウルサイ!!って言われるよ。だから音が出ないオモチャにしてくれない?
ルル:じゃあ何があるの?何を選べば良い?LEGOブロックはダメなんでしょー?
ボク:LEGOがダメ?なんで?
ルル:家に持って帰ったら怒られない?また同じ物買ってきて!とか言われない?
ボク:言われないでしょ。大丈夫!ボクが買ってあげたって言うから、LEGOブロックで好きな物を選んで。でも高すぎるモノはダメよ!
ルル:分かった!
ルルはLEGOブロックの棚に走っていく。
本には、本人が欲しい物を買ってあげて!
なんて書いているが、ナカナカそれを叶えてあげられない。電子音がするオモチャは、音量調整が出来れば良いが、大体は大きな音がするので、高齢者には耐え難いハズだ。しかも剣だと、家の中で振り回さずには居られない!!
ルル:コレが欲しい。ダメかな?
ルルの選んだ物は2000円ほどするLEGOだった。
ボクは無条件で買ってあげた。ココでもボクは、ルルにお金を渡し、商品もルル自身に持たせて会計場所に持って行かせた。
2度目のお買物。
今回は小さな声で『ありがとう』が言えた。そして店員さんにバイバイも!!!
ボクはルルにスゴイね!!
ありがとうも言えたし、バイバイも出来た!!
カッコイイね!!!
と、褒めて褒めて褒めまくった!!
ルルはとても嬉しそうだ。
ボクはふと考えた。
ルルとボクだけ、実家に戻り、両親と一緒に暮らせば良いのではないかと。
そうすれば年老いた両親は生活に張りが出来る。
ボクが居る事で、外に買い物にも遊びにも、病院にも行ける様になり喜びが出来る。
日々成長していくルルを見ていく事で、楽しみが増える。
ルルにとっても田舎暮らしの方が良いと思える。
誘惑するお店も無ければ、車の通りも少ない。
山はあるし、海なんて自転車で走ればすぐに海水浴場だ!
砂浜で大きな石をひっくり返せば、そこはルルが見たこともない生物がギッシリ!!
小さな蟹やタニシ、ゴカイやイソギンチャク
どれも初めて見る生き物に怖くて触らないと言うが、基本的に男の子である。
この生活が身近になれば、イモリだって、ヤモリだって、トカゲだって、お魚だって触れる様になるに違いない。
普通に蛇口をひねれば出る『水道水』も、田舎のお水はとんでも無く美味しい!!
ルル:ここの『お水』。何だか凄く美味しいね!
ボク:え?分かるの?
ルル:それ位分かるよ!
父曰く、ダムで貯められた水では無く、流れる川から直接貯水場に行く水だから美味しいんだとか
いまボクが住んでいる街は東京から見れば田舎である。しかし周りには物が溢れ、大きなスーパーや子供心をくすぐるお店も多く存在する。
ゲーセンもあるし、カラオケ店も多い。
クルマの往来も激しく、自転車で外に出たら事故に遭わないかハラハラしそうな場所である。
対して実家は年々高齢化して人口も少なくなってきている。ボクが小さい頃は駄菓子屋があったり、小さいながらもゲーセンがあった。
しかし今では、そんな施設は全く無いし、大きなスーパーマーケットも無い。
あるのは…自然だけ
ボクには夢がある。
それは
『育った街に帰りたい』
しかし…そもそも妻が『お母さん』になりたい!と言うのが主旨の『特別養子縁組』である。
妻が単身赴任で納得するはずが無い。
ルルの将来を考えれば、どちらが良いのだろうか?
子育てと言うのは難しい。