今回の為替介入は政府の立場からすれば成功した為替介入と言えるだろう。
しかし、高値でキープしてもらいたい投資家からすれば、また水準を維持できない効果の薄い介入と評価するのだろうし、マーケット全体を考えると、やはり日本の単独介入というのは、今回のケースも含めてほとんどのケースにおいて、あまり好ましくない行動だと思う。

兎にも角にも、今回の介入は個人的にはいろいろと面白かった。

まずは、介入が行われた10月31日の1分足チャートを見てみよう。
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日経新聞には「新手の指値介入」と評された。

チャートを見ると、東京時間の12時前から15時近くまで、ほぼドル円が79.20で膠着している。これは日銀が1000本を越える大量のビッドを79.20に置き続けたことによって生じ、日経新聞はこれを「新手の指値介入」と呼んだ。

今回の介入が政府にとって成功といえるのは、政府の介入の目標が「水準の維持」ではなく「輸出企業(トヨタなど)にドル円を高値で売らせること」にあるからだ。

ドル円は東京時間の午後はずっと79.20にいた。この時間帯に値動きは一切ないが、輸出企業から大量のドル売りが持ち込まれた。
500億の売りがばんばん出ていたイメージだ。
その大量の売りを全て政府・日銀が吸収した。

前回8月4日の為替介入では80円台まで円安が進んだが、そのほとんどが投機家の利食い売りに吸収され、ドル円が80円台に到達したのはロンドン時間に入ってからの19時頃でその滞空時間も30分程度、輸出企業は思ったほど高値でドル円を売ることができなかった。
これを考えると、今回の介入は、介入後すぐに高値をつけてその後東京時間の3時間程度水準を維持し、売り場を提供することができた。


今回、このように介入がうまくいったのは、タイミングがまさに不意打ちだったということが一因だろう。
G20前であり、月末であり、週明けであり、直近数日間は毎日のようにドル円は戦後最安値を更新している中介入が実施されてこず、マーケットの介入期待感が落ちている時に、まさに不意をつかれて介入が実施された。

また、日本企業は中間決算を終えて、ドル円の想定レートを大幅に下げていた。例えばパナソニックが1ドル=83円から78円に下方修正するなど、多くの企業でドル円は5円程度円高方向に想定レートを下げていた。

これを踏まえて、安住財務相の「納得のいく水準」が79.20円程度だったのだろうと想像できる。
ちなみに、79円ちょうどではなく20銭というのは、ドル円の来年3月末までのディスカウントが20銭程度あるので、それを勘案したと考えられ、そう考えると、「納得のいく水準」が来年3月末時点で79円ときりのいい数字になる。

こういったことを考えると、政府的には今回の為替介入には満足のいく結果が得られたと感じえるのではないだろうか。


しかし、やはり為替介入には多くの批判が生まれるのも事実であるし、僕自身もあまり日本のような大国が為替介入などやるべきじゃないと考えている。

まず批判としてすぐにあがってくるのは、結局今回の介入も多くが証拠金トレーダーの利食いに吸収されてしまったということだろう。
下のチャートはくりっく365におけるドル円のネットポジションの推移だが、今回の介入では過去の介入以上にドル円のロングが減少していることがわかる。
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しかし、こういった投機家の利食い売りに吸収されないようにすることは不可能なことであり、批判しても仕方ないことだろう。

とはいっても、日本は世界第3位の経済大国であるし、一応東京市場は今でもNY、ロンドンと並ぶ3大マーケットの1つなのだから、やたらと大規模な介入を実施してマーケットを強引に動かすことが好ましくないだろう。
こういった大規模な介入が繰り返されたら、東京市場や円相場には市場リスク以外のリスクを気にしなくてはならず、ますます投資家離れが進むことだろう。




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