先日、ブラジル中央銀行は予想外(マーケットでは70%織り込まれていたが…)の政策金利の引き下げを行った。
ブラジルの経済状況を考えると、この利下げを説明するにはやや難がある、というのがその後優勢になっている反応のように思う。

今回は、このブラジル中央銀行が利下げに政策を転換させた理由を考えていくことにする。

結論を先に書くと、僕が考える利下げを行った理由は2つ。

①通貨高による貿易収支の悪化を防ぐ(要は通貨高抑制)
②韓国からの教訓から、ドルキャリーの巻き戻しを警戒

まずは、①から説明していこう。

以前、貿易収支と所得収支のエントリーを書いたが、その時に「経常収支の発展モデル」をいうものを紹介した。
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ブラジルの現状の国際収支を見ると、経常収支はマイナス、貿易収支はプラス、所得収支はマイナスとなっていて、このモデルに従うとブラジルは「成熟した債務国」から「債務返済国」に移行している段階に位置づけられる。

この段階では、海外からの借入を返済するために貿易収支(海外からの収入)を拡大させる必要がある。
しかし、アメリカをはじめ先進国が異例の金融緩和を継続している中で為替相場ではレアル高が起こり、これは輸出拡大の足かせとなっている。

貿易収支拡大をさせなければいけないブラジルにとってレアル高は容認できない問題であり、今回の利下げに至った一つの理由になったと考えられる。

ブラジルのような経常赤字国は輸出を伸ばす必要があると同時に、内需を押さえる必要がある。ブラジルの需給ギャップは依然タイトな状況であり、今回の利下げは内需拡大(バブル)、ひいてはインフレ率の一段の上昇を招く恐れがあり、今後注意を払わなければいけないだろう。

2つ目の理由はドルキャリー取引の巻き戻しへの警戒である。
現状、世界経済が再びリセッション入りする可能性が高まっているだけに、このあたりへ警戒感を強めているように感じる。

具体的に説明するために、韓国の悪しき経験を例に出したい。
2000年頃から始まった好景気の中で、新興国である韓国は資金需要が増したわけだが、自国の高い金利で資金調達するよりも、日本が低金利のため円で調達することにメリットがあり、韓国は円調達を積極的に行っていた。
景気拡大が続く限り、ウォン高により円建て債務は目減りしていくことも好材料だった。

しかし、2007年頃から世界経済の雲行きは怪しくなり、次第に円キャリーの巻き戻しが起こり始めた。景気後退局面入りで韓国の資金需要も減っていくわけだが、円キャリーの巻き戻しにより円高が起こり韓国の円建て債務はどんどん増えていく状態になった。
結果、韓国はどんどん増える債務を返済するための短期の借入を増やすという自転車操業のような状態に陥り、ひどい景気後退を強いられてしまった。

現在のブラジルはまさに、昔の韓国のような状態であり、ドルキャリーによるドル建て債務が積みあがっている状態だ。

韓国の悪しき教訓を参考に、ブラジル中央銀行はリセッション入りに備えて早めにリスクの芽をつぶしておこうとの判断で、今回の利下げに踏み切ったのだと考えられる。


しかし、先ほども触れたように、ブラジルの需給ギャップは依然タイトであり、インフレ率もブラジル中央銀行のインフレターゲットを超えている水準である。
今回の利下げが間違った判断(バブル醸成)となる可能性も相応にあり、今後注意深く観察していく必要がある。

また、一部で指摘があるようにブラジルと環境が似ているインドなどでは、ブラジルに追随する動きが出てくるかもしれない。




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