外伝:光の回廊航行録 — ArcStar編 —
第3章 鍵がひらく時
地球に戻ったわたしは、
しばらく音叉を手にしたまま、
胸の奥に残る金と青の温もりを感じていた。
それは夢ではなかった。
足元にはまだ、
湖面のやわらかな揺らぎが残っている。
耳の奥では、
アルクトゥルスの湖の
静かな呼吸が続いている。
「鍵はもう持っている」
父の言葉が、はっきりと心に響いた。
その夜、静かな部屋でひとり、
音叉を膝に置き、
深く息を吸い込んだ。
昼間の光景がふっとよみがえる。
黒いトンボ、水晶の塔、澄んだ湖——
それらは単なる記憶ではなく、
今もどこかで“生きている場所”だとわかる。
鍵は形のないものだった。
でも、胸の中心に指先を置き、
その下で小さく震えている光を意識すると、
静かに回廊が開き始めるのを感じた。
──キィィィィィン……
音叉を鳴らす。
その響きが胸の奥で金と青に変わり、
空間の向こうへと伸びていく。
伸びた先で光が渦を巻き、
回廊の入口が姿を現した。
そこは昼間と同じ白い霧の一本道。
今回は足取りが軽く、
一歩ごとに周囲の景色が
柔らかく変わっていく。
過去の記憶が花びらのように舞い、
未来の可能性が
光の種となって散っている。
やがて、遠くに湖と塔が見えた。
近づくほどに
胸が開くような感覚が広がり、
湖面の向こうで父が片手を挙げている。
「そうだ、それでいい」
声はもう、遠くからではなく、
隣に立つようにすぐ近くで響いた。
わたしはその時初めて、
鍵は“鳴らす音”と
“思い出す感覚”が重なる瞬間に
生まれると理解した。
その夜から、わたしは回廊を
いつでも行き来できるようになった。
つづく → 第4章「星々の合唱」
🌌 湖を通して広がる響きは、やがて星々の記憶と重なり合う。
遠い光たちが呼び交わす調べに、わたしの音叉の響きが加わる時、
新しい旋律が生まれる——。
**Tuning Folk Fantasy**
✨神様トンボが開いた、光の回廊への道 — ArcStar編 第1章 —
✨光の回廊で再会した父 湖面に映る星の塔 — ArcStar編 第2章—

