緑色の字で示した飯豊の言葉、

日本書記の記述の現代語訳そのものです!

この言葉が前後の脈絡と関係なく突然現れます。

 

6-7

憎しみよりも彼の孤独を感じたのは何故だったのか。

飯豊は力が抜けたように床に横たわったまま、しばらくの間泣いた。

しかし、その涙が、

想い人でもない男に操を奪われた悔しさによるものではないことだけは確かだった。

陽が上り、飯豊は恐る恐るやってきた野須良に言った。

「蟻と佐多理使主をこれへ!」

朝日が館の奥まで差し込んでいる。

その光の中に飯豊の姿があった。

蟻と佐多理使主はその神々しさに息をのみ、思わずひれ伏すのだった。

 

「私は昨夜、初めて女の道を知りました。

しかし、別に変わったことは何もありません。

ただ今後、私は二度と男と交わることはないでしょう」

 

「ひめみこ・・・奴が迂闊でした。まさか大王が忍んでおいでになるとは・・・」

佐多理使主が振り絞るような声で言った。

「そなたが何十人おろうが、衛士が何百人おろうが、

大王をお止めすることは出来なかったでしょう。

ただ大王は約束して下さいました。この忍海の地と民を私に委ねると」

「おお、ひめ・・・その御身をもってこの忍海を守って下さったのですね・・・」

蟻は大粒の涙をこぼしながら飯豊の手を取った。

「じじさま、もう何も案ずることはありません。

これより、この私が忍海の民を守ります」

忍海の民が、昔のように飯豊を主と仰ぎながら

暮らせるようになったことに狂喜乱舞したことは言うまでもない。

 

葛城山

 

飯豊が残した不思議な言葉、

彼女の巫女的なイメージを強調するために

このような記述となったのではと主張する歴史学者もいます。