さあて、大変なことになりましたが、なにせ相手は大王、
しかし、飯豊は暴君として名高い稚武王の意外な一面を
引き出すことに成功します。
6-5
飯豊は一瞬であったが、そこに亡き父の面影を見たような気がした。
「大王、私はもはや、あなた様を恨んではおりませぬ。
我が父押磐は生前、
大王の抱かれた大きな夢をかなえるために力になりたいと申しておりました。
またその一方で、葛城の力が大きくなりすぎたが故に、
いずれは滅ぼされるかも知れぬとも申しておりました。
亡き父も私も双方の血を受け継いでおります。
今だから私にはわかるのです。もし父が大王となれば、
葛城の一族は、その大王家すら脅かす存在となっていたかも知れないということを」
「飯豊・・・」
「・・・・・」
「我の正妃の父は葛城円大臣だ。我が兄と眉輪王を匿った咎で殺した。
押磐亡き今、確かに葛城の領地のことごとくが屯倉となり、
今や完全に大王家に屈したといえる。それゆえ我は今宵、
そなたを妃として連れ帰るつもりで来たのだ」
「それは何故?私を憐れんでのことですか?」
飯豊はこの時、かつて父、押磐が
それを望んでいたのではないかと訝ったことを思い出した。
「いや、そなたはあの夜のことを覚えているか?」
稚武のいうあの夜とは、先々代の大王の臨終の場で、
飯豊をそばに呼び寄せた時のことである。
「あの夜のことは決して忘れもいたしません」
「そなたは震えておった。それが妙に愛おしいと思ったのだ。
であるからこそ、また会おうと言ったのだ。
しかし今、我はその愛おしさゆえに、そなたを妃にはすまいと心に決めたのだ」
「欲しいものなら何でも手に入れると言われる大王が、何と殊勝なことを」
「あはは。確かに今、我に逆らう者はいない。
しかし、我にも後悔することはある。押磐を殺したのは過ちであった。
そなたの父は決して葛城の威を借りようとはしていなかったことが
今になってわかったのだ。生きていれば、我が片腕となって韓の国々の支配に、
そしてこの国の強大化に力を貸してくれたであろう。
そこで今宵、我は思ったのだ。押磐の唯一の忘れ形見、
飯豊をやみくもに奪っては申し訳がたたぬと」
「ならば、大王にお願いがございます」
葛城市歴史博物館のマスコットキャラクター 飯豊とシロフクロウがモチーフです。
万葉集の冒頭の歌がこの雄略天皇の御製とされています、。
壮大なナンパの歌なのですが、一方で古代のおおらかさ、のどかさも感じられます。
是非ググってみて下さい。
さて、稚武大王とのやりとりはもうしばらく続きます。