最初に一言。これからのお話は私の完全創作ではありません。

日本書記になぜか唐突に「この事件」が記述されているのです。

今回はそれをもとにコロスケの大胆な推測を交えた話が繰り広げられます。

 

6-4

 

釈迦は「仏」としてではなく、異国の神として捉えられていたであろうことは想像するに難くない。

 それはある風の強い夜のことだった。

侍女の野須良はすでに飯豊のそばを下がり、

佐多理は衛士たちと酒を飲み、酔いつぶれていた。

もとより蟻は、分別すらつかぬ老人のように眠りこけていたはずである。

 飯豊が亜麻那味にもらった香を焚き、夜具に身を包み微睡んでいると、

突然、酒臭い息とともに大きな人影が彼女の上にのしかかってきたのだった。

「誰?」

そう叫ぼうとした口を塞がれた飯豊は、もはやなす術を知らなかった。

いや、叫ぶことが出来たとしても、すべては風の音に消されてしまったであろう。

彼女に襲いかかった男は、荒い息を立てながら、瞬く間に自らの欲望を果たしたのだった。

「そなた、初めてだったのか・・・」

「そのお声は・・・」

「そうよ、そなたの父母と弟どもを殺した男だ」

「大王(おおきみ)!?・・・・」

「我が来ると知っていれば、仇を討つことも出来たろうに。

もっとも、この闇夜ではどこが急所かもわからないであろうがな。

そなたはさぞや我を恨んでおろう」

飯豊は初めて経験する痛みに耐えながらも、今何を言うべきかを考えていた。

ようやく異変に気付いたのか、数人の衛士の松明の火が近づいてきたのだが、稚武は、

「これ以上近づくな。我は初瀬の稚武なるぞ」と大声で叫んだ。

その声に衛士たちが怯んだ刹那、一本の松明の火が稚武の顔を赤々と照らしたのだった。

飯豊は一瞬であったが、そこに亡き父の面影を見たような気がした。

 

 

4~5世紀頃の豪族の館 

群馬県保渡田古墳群の近くで発見された遺構をもとに再現

 

日本書記に相手の男が誰だったという記述はありません。

そこで様々な説があるのですが、

私はその相手を稚武大王(雄略天皇)と推定しました。

 

この先、思わぬ展開に!!