ついに葛城一族の命運も尽きようとしています。

眉輪王に大王殺害後、

円の館に逃げるよう教唆した人物がいたわけです。

 

5-3

 

円大臣は言うまでもなく、葛城一族の長である。

「じじさま、飯豊にはよくわかりません。

なにがまずいことなのですか」

呆然とする蟻の横で、飯豊はただただうろたえるばかりであったが、

すぐに父押磐の言葉を思い出した。

(稚武が王位につけば、いずれ葛城の一族も邪魔になるのやもしれぬ・・・)

これを機に、稚武王が大王位を取りにくることは明白だった。

飯豊はすぐさま父、押磐の身を案じた。

石上から第二報が届いたのはこの時だった。

「白彦王が稚武王と物部の兵によって殺された由。

さらに葛城の円大臣の館を稚武王の兵が取り囲み、

黒彦王と眉輪王の引き渡しを要求しているとのことでございます!」

もはや蟻にはどうすることも出来なかった。

今はこの忍海にも累が及ぶ可能性すらあったことから、

警護を厳重にせよと、衛士に命じるほかはなかったのである。

「じじ様、これから私たちはどうなるのでしょう」

「今は様子をみるしかありませぬ。

ただ、ひめのおん身は一族を上げて守りますゆえ、ご案じなさいますな」

眉輪王と黒彦王、それに二人をかばった円大臣の一族すべてが、

館ごと焼き殺されたとの知らせが届いたのは翌朝のことだった。

体のいたるところに火傷を負いながらも、

命からがら忍海にたどり着いた円の近習は、声を振り絞るように言った。

「円さまは稚武王に、

臣下の家に逃げ込んだ君王を見捨てることは出来ないと仰せになり、

七か所の領地と息女、黒媛様を差し出すことで

二人の王の助命を願い出ましたが、それもかなわず・・・」

「何ともひどいことを・・・」

飯豊の脳裏に、昨年の夏訪れたばかりの壮大な館と、

やさしげな円の妻の姿が蘇った。

そしてあの高楼は結局、何の役にも立たなかったのだと思った。

「稚武王は・・・追ってこの忍海にも使いを出すとの・・・仰せでした」

そう言い終えると、円の近習は崩れるように倒れ込んだ。

 

 

 

日本書記の記述内容が立証された大発見でした!