1.事件の概要
2026年(令和8年)3月3日、大阪地方裁判所は、慢性便秘症治療薬アミティーザ®(一般名:ルビプロストン)をめぐる特許権侵害差止請求訴訟について、原告(先発側)の請求をいずれも棄却する判決を言い渡しました(令和7年(ワ)第10786号・第10790号)。原告は専用実施権者のヴィアトリス製薬合同会社、補助参加人は特許権者のスキャンポ社、被告は沢井製薬株式会社です。
問題となった特許は、①機能性胃腸疾患による腹部不快感の処置のための医薬組成物に関する特許(特許第4889219号)と、②薬物誘発性便秘処置用組成物に関する特許(特許第4332353号)の2件です。アミティーザには24μg製剤(2012年承認)と12μg製剤(2018年承認)があり、各特許について、24μg承認に基づく延長登録と、12μg承認に基づく延長登録(延長期間5年)の二つの延長登録がされていました。本訴提起の時点で、24μg承認に基づく延長期間は既に満了し、12μg承認に基づく延長期間のみが存続していました。このような状況の下、原告は、24μgの後発品の製造販売承認申請をした被告に対し、12μg承認に基づき延長された特許権の効力は分量24μgの後発品にも及ぶと主張して、生産・譲渡等の差止め、廃棄および薬価基準収載申請の差止めを求めました。
本件は、2025年10月の提訴から5か月足らずで判決に至っています。後発品の承認・薬価収載スケジュール(2026年2月承認の場合、同年6月収載見込み)を見据え、並行する仮処分事件と歩調を合わせた異例のスピード審理であった点も注目されます。
2.技術的範囲―ラベル論・専ら論は採用されず
被告は、用途発明の「実施」は専ら当該用途に使用するための生産・譲渡等に限られ(いわゆる専ら論)、医薬品の用途は添付文書の効能・効果の記載(ラベル)に従って判断すべきである(いわゆるラベル論)と主張しました。被告製品の効能・効果は「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」であり、「機能性胃腸疾患」や「薬物誘発性便秘」の処置に用いる旨のラベルは存在しない、という主張です。
しかし裁判所は、技術常識に照らせば、器質的疾患による便秘を除く慢性便秘症は、その一態様として機能性便秘症や薬剤性便秘をも用途として含むとして、いずれの特許についても構成要件充足性を認めました。用途特許の充足論として先発側に有利な判断であり、この点だけでも実務上注目に値します。
3.本判決の核心―延長登録の「短冊」を越えられるか
それでも原告が敗訴したのは、存続期間が延長された特許権の効力範囲(特許法68条の2)に関する判断によります。オキサリプラチン知財高裁大合議判決は、延長特許権の効力は政令処分で特定された医薬品と「実質同一」のものにも及ぶとし、その類型④として、「分量」は異なるが「用法、用量」も併せてみれば同一と認められる場合を挙げていました。原告は、被告製品(24μg)は12μg製剤と分量のみを異にする類型④の典型例であると主張しました。
裁判所は、12μgと24μgの分量の差異それ自体については、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異とみる余地があることは否定できないとしつつ、次の枠組みを示して原告の主張を退けました。すなわち、ベバシズマブ最高裁判決の下では、成分、分量、用法、用量、効能及び効果を異にする医薬品は、延長登録出願上それぞれ別の「物」として扱われ、延長の可否・期間が個別に審査されます。判決はこれを延長登録の「短冊化」と表現します。延長特許権の効力は実質同一の範囲まで一定の広がりを持つものの、その広がりは、短冊化された延長登録の範囲・単位と抵触しない制約の中で解釈されるべきであり、少なくとも、先行する延長登録(24μg処分)の対象物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果が同一の物に対しては、後行する延長登録(12μg処分)に基づく延長特許権の効力は及ばない、というものです。
仮に原告の主張を認めれば、既に終了した24μg承認に基づく延長期間が、12μg承認を理由として実質的に再延長されるに等しく、政令処分を受けるために失われた期間の回復という延長登録制度の趣旨を超えて、特許権者と第三者との衡平を損なう――これが判決の実質的な理由です。
4.実務へのインパクト
先発側にとって、本判決は含量追加によるライフサイクルマネジメントの限界を突きつけるものです。低用量製剤などの後行承認に基づき法定上限5年の延長登録を得たとしても、その効力によって先行含量の後発品の参入を阻止することはできない、ということになります。他方、判決は、先行処分について延長登録をしなかった場合の効力範囲については判断を留保しており、含量追加が見込まれる場合に先行処分に基づく延長登録出願をどう位置づけるかは、今後の戦略的検討課題として残ります。
後発側にとっては、先行含量に係る延長期間の満了後は、分量違いの後行延長登録が存続していても、先行含量と同一規格での参入の途が開かれたことになります。
オキサリプラチン大合議判決の類型④の射程を実質的に限定する新しい判断の枠組みを示したものと理解できますので、控訴された場合、知財高裁がどのように判断するのか大いに興味があるところです。