第3話
翼のないドラゴンもいる―――もちろんゲームの中でだけど。
どんどん炎上し続けるやり取りを前に、フィリス先生は声を上げて止めに入った。
「二人ともやめなさい。実体は基本的に実在する動物の形態を主軸にはしているけど、精神の……心の形に従って形成されてるの。だから、これはウサギだとか。ドラゴンだとか。そんな枠組みには収まりきれるものじゃないの」
そう…だよな。なんか、悪いこといっちゃったのかな。
ドラゴンでもウサギでも。こいつはこいつなんだ。
「トニーさんだってそうでしょ?本人はネコちゃんだって言ってるけど喋るし、普通に見ればタヌキじゃない。一人一人のマインド。一つ一つの命。みんな違っているからいいんじゃないの。だから、これはなんだとか。そうやって私たちの概念に当てはめていく必要は今はないでしょ?まだ開発途中の技術だから分からないことも多いわ。それに―――心の形は、一人一人違うんだし」
ん?……トニー…さん??
そんなことより…オレはいいことを思いついた。
「本人に訊けば話は早いよ!」
『あ…!』
一同、オレの提案にはっとする。
なぜなら、トニーは自分でタヌキじゃなくてネコだと訂正したのだ。
だったら…
「ねえ。オレ、ディール。キミはウサギじゃないよな?ドラゴンだよな?」
白いマインドの返答に一同は注目した。
ややあって―――
「ミユ!」
鳴き声で応えられた。
「えーっと―――」
周りから白い視線が注がれる。
「ほ…ホラ、やっぱりドラゴンだって!」
オレはなんとか話を強引に繋げてみた。
「トニー。ディールのマインドはドラゴンで合ってんの?」
ランセットは自身のマインド、黒猫のトニーに問いただした。
「わいが知るわけないやろが!でも、こいつは否定しとらへんで」
「じゃあ、ドラゴンで決まりだね!」
ランセットはオレに向かってガッツポーズをした。サンキュ!
「あなたたち…私の話は聴いていたのかしら……」
フィリス先生は疲れ切った表情だ。これは諭すのを諦めたな。
「話はちゃんと聴いてましたって!でも本人がドラゴンだって認めたんだから、何かを押し付けるわけじゃないでしょ?それよりも名前決めなくちゃ。何にしよう。カッコいい名前がいいよな?ライティングセイバーでどう?」
「ホラ出た!あんたほんとバカ?」
リカが茶々を入れてくるが取り敢えず無視しておく。それよりも本人はオレの付けた名前を気に入るかどうか―――
「ミユミユ!」
飛び跳ねて喜んでいるようだ。どうやら気に入ってくれたらしい。
「違うわよ!ミユちゃんって呼んでほしいんじゃないかしら?!」
リカが茶々を入れてくるがやっぱり無視しておく。
「でもディール。それ長すぎるんじゃない?かっちょいい名前なのは分かるけどさ」
う~ん。ランセットの言う通りか。
「じゃあ、略してライバーだ!お前は今日からライバーだ!」
オレはやっと名前が決まったオレのマインド、ライバーのおでこを撫でてあげた。
目を細めて気持ち良くしているようだった。
「それじゃあ3人とも!ケアリー、トニー、ライバーの抽出作業はこれで完了よ。1階の待合ロビーで待っててちょうだい」
あっという間だった抽出を終えて、オレ・ランセット・リカの3人はセンターの待合ロビーでそれぞれのマインドたちと共にフィリス先生を待った。2階まで吹き抜けた天井。ガラス張りで陽光がたっぷり降り注ぐ。空調は快適だった。気持ちいい。
待ってる間に、受付のお姉さんからマインドに関するガイドブックをもらい、あとは明細?を発行された。子どもにとってはマジでビビる金額だったが、本人負担はゼロになってた。
まだ研究開発段階の技術ということもあって、国やマインドの協会、研究施設とかからの補助が出てるのだ。もちろん、ライセンスを取れなくちゃ受けられないけど。
リカはすっかり元気になって、うるさいくらいキャッキャキャッキャしていた。ライバーの名前のこととか引きずっていた。
オレとランセットは抽出時から平気なままで、結局不調を訴えることはなかった。
「ていうか、なんでそもそもあんたたちは平気なわけ?」
不満そうにリカが訊いてきた。
「あたしだけダウンなんて、まるであたしがオバサンみたいじゃない!」
「ぷっ。実際そうだろ?」
「なんだと!このがきんちょがー!!!」
リカとランセットは戦争を始めた。
正直リカの見た目は年相応だが、よく喋るところは近所のおばちゃん、そのまんまだ。
ランセットがやられて死にそうになってきたので、オレは加勢に…じゃなかった。仲裁に入って治めようとする。リカは何かとバカ力で、女のくせにケンカも強い。ランセットが弱いわけじゃない。ランセットはしっかり者だが、時々無謀なことがある。
ライバー・ケアリー・トニーの3匹は、傍で仲良く大人しく待っている。これじゃあ、どっちがマスターか分かんないな。
ランセットが足で潰され、オレがリカに頭をアイアンクローされて死にかけた時―――
「こら!あなたたち。ここは児童館じゃないのよ?!」
険しい顔のフィリス先生が登場した。
3人は慌てて謝った。
「あの…フィリス先生…」
リカが申しわけなさそうに申し出た。
「ん?何かしら?」
「あの二人だけ抽出平気だったみたいじゃないですか―――あたしだけすごくダメだったみたいで―――その―――」
「…落ち込むことはないわ。リカちゃんが普通よ。あの子たちが異常にガッツがあっただけ。でも、リカちゃんだって、こうしてライセンスも取れてるじゃない?競争倍率120倍くらいはあったと思うけど?だから―――自信をもって。やりたくてもそうそう誰でも出来ることじゃないのよ?」
いつも若干怖そうな顔のフィリス先生の見せる大人の女性の優しさに、リカはらしくもなく、瞳が潤んでいた。しかし―――
「オイラの姉ちゃんも、この前マインド抽出したって言ってたけどな~♪」
自慢そうにランセットが挑発を仕掛けた。フィリス先生はあちゃ~って表情をして、手を顔に当てた。
「こ…っ!あたしだって、いとこが今度マインド抽出するって言ってたわよ~!クソランセットのとこが特別なんじゃないわよ!!」
リカはキレた。
戦争はまた始まった。
「マインド。希望者120人に1人って嘘じゃないんですか?」
オレの冷静な突っ込みに意外にもフィリス先生は首を横に振った。
「いいえ。こんなに近くにマインドを抽出している人がいるというのはそうそうあることじゃないわ」
「そういう血筋、ってことですか?」
「へぇ。ディール君、賢いのね。確かに、生まれつき心の強い血統みたいなものがあれば、家族や親戚にマインドマスターが多いのは説明がつくわね。この分野もまだ試験段階だし、さっきも言ったけど分かってないことも多いの。その可能性もある、としか答えられないわね」
少し悔しそうに言うフィリス先生。何かを研究している人っていうのはそういうものなのかなと思った。なんとなくだけど。
?オレ、誉められた?
気が付くと―――ランセットはボロボロになっていた。
―――困ったことがあればなんでも相談しなさい―――
フィリス先生はそう言って、オレたち3人にケータイの番号を教えてくれた。
そのあとはマインドの力を伝達・変換させるモバイルコンバーター?というものをもらった。ハンドアクセサリーとして普段から身に着けられるように加工されている。オレはグローブ型。ランセットは腕時計型。リカは―――なんだっけ?ブレスレット型?を選んだ。
オレだったらこのグローブ。仕組まれているデバイスは薄くて軽くて曲げることも出来て。しかも防水、しかも丈夫!らしい。そしてライバーの生体情報とリンクするように専用アカウントが設定されている―――らしい。
詳しいことは後日説明がある―――ことになっている。
結局のところまだよく分からないんだけどね。
抽出が終わった後は使い方や何やらの協会の研修があるから、メリグロウォスまで行かなくちゃいけない。
イレキスみたいな田舎じゃあ不便だなぁと思うけど、メリグロウォスはそう遠くない。
電車で20分くらい。研修も明日から2泊3日。
実際、泊まらずに帰る方がお金もかからないし楽だけど、折角友だちといるんだから泊まった方が面白い。
でも―――
「リカはどうするんだ?メリグロウォス行くんだろ?」
オレは訊いてみたけど、別に一緒じゃなくてもいいのが正直なところ。ランセットとすぐケンカになるし。ランセットすぐ負けるし。
「ええ。明日の朝に出るわよ」
ランセットはにんまりして、
「ざんねんだなぁ~オイラたち、今日からもうメリグロウォス行っちゃうから、別々に動くことになっちゃうなぁ~」
白々しいことこの上ない。
「あたしは。あんたたちみたいに。暇じゃないのよ」
まあ、そこは否定しない。
メリグロウォスまでもこれから歩いて行くつもりだし。
運賃が高いわけでもないから、電車で明日の朝出発してもいいんだけど。
「オレたち、旅がしたいんだよ。冒険といえば、徒歩。そして宿屋だろ?」
