第19話
「さて、とぉ……」
自宅でプリントアウトしてきた周辺の宿泊施設の案内を何枚かテーブルに並べる。
サエラ駅を出てすぐのところにある公園のベンチとテーブルを使い、作戦会議だ。
平日の日中ということであまり人気はない。休日なら大賑わいになってるところなんだろうけど。空いてるのは確かに利用しやすいが、混んでないとちょっとだけ寂しいものもあるかな。
「ディール…オイラ、そんなにお金ないからね…」
「っつーかさ、いっそのこと野宿でもいいんじゃね?夜になってもそんなに寒くねぇだろ?」
レッダーの経済的な案も一理ある。
「社会人になってさ―――」
オレはぽつりと語り始める。
「いっぱい稼げるようになったら、お金貯めてみんなで集まってさ―――」
駅前に存在を思い切り主張するかのように聳え立つオシャレな高級ホテルに目を移し…
「あそこに泊まろうね―――」
二人と三匹はうんうん黙って頷いた。
「でさ、野宿はしねぇのかよ?」
野宿推進派のレッダーが野宿を推してくる。
コーンは少し嫌そうな顔でくぅ~んと小さく鳴いている。
「あのさ、レッダー。野宿とキャンプは違うからね!」
オレが一言釘を刺しておくと、レッダーはよく分かってないらしく眉を顰めて悩みだした。
「海の男たち(←サーファーとか)が使いそうな海の家?的な民宿もあるし、つまんないビジネスホテルもある。あと、ラブホテルだってあるし―――」
「そこ、いいんじゃない?」
オレの説明途中にランセットがラブホテルで反応した。
「えーっ、なんでだよ?男同士でラブホテルかよ?!」
野宿推進派のレッダーが抗議の声を上げると、ランセットは…
「トニーとライバーとコーンもいるよ?」
確かに。
「それにさ、レッダー。AV見放題かもよ?」
ごくり。
レッダーの方からそんな音が聴こえた。
「確かにあれだけどさ、普通のホテルに泊まるより安く抑えられるからセックス以外の目的で使われることも多いみたいだよ?家族連れとか…」
オレがそうフォロー入れると、レッダーの気持ちはほぼ固まりつつあった。
「ま……まぁ、…そこまで…言う…ん…」
「でも経済的で現実的なのはこの海の家(?)的なところだったからオレ予約してきたんだけどね~」
オレはその直後、ランセットとレッダーに羽交い絞めにされた。
トイレやバスルームなんかも共用で、ホテルの個室と比べれば勝手は少し悪いかもだけど、設備的には十分だった。一つの部屋には二階建てベッドが二つ。3人で使って一つ余るが、その一つをコーンが使えば丁度いい。ライバーやトニーは一緒に寝られる。だから、実質貸切みたいなものだった。
エアコンは…ない。
だけど、風通しも良く、そんなに不快な環境じゃなかった。
難を言えば…やっぱ狭いかも。
荷物をベッドに放り出して、水着に着替えてオレたちは食堂の方へと向かった。
ランセットも水着を持って来ていた。レッダーにはオレの持ってきたものが穿けた。
平日だけどお昼時で、場所が場所なだけに人はそこそこ入っていた。
この食堂はここに泊まる客だけが使うわけではなく、一般の人も利用するまさしく「海の家」だった。シーズン的にはまだかなり早い。だけどこの地域ではもう海開きをしているということだから驚きだ。イレキスやメリグロウォスとは気候が違う。
食堂の中には、さすがにオレたちと同じくらいの奴はいなかったけど、若いサーファーの兄ちゃんたちや、じいちゃんサーファーの姿もある。水着ギャルとはまたカテゴリーの違う、筋肉質なサーファーのギャルもいる。
ちょっとオレたちの存在は浮いている方かもしれない。
「焼きそば…一昨日食べた。カレー…その前の日に食べた。……」
少ないメニューを見ながら、オレは何を食べようか考えた。
「そうだな…あまり高いものは頼めないし、かといって定番は最近食べちまってるもんな…」
レッダーも何を選べばいいか悩み中だ。最悪またカレーでも嫌じゃないんだけどね。
「せや、ランセット。この味噌田楽セットにしぃや!めっちゃうまそうやないかい?!」
なぜかトニーが決めた。
「おでんか…確かに、普段そんなに食べないな」
ランセットはそんなに嫌そうじゃなかった。でもオレもちょっと賛成かも。
「なんだよ…こんなに暑ぃのにおでんかよ。ソーメンのほうがいいんじゃね?」
レッダーは苦手そうだ。しかし、これならどうだ?!
「レッダー、おでんは低脂質高蛋白で身体にいいんだよ?良質な筋肉を作るのに最適じゃない?」
「ああ、そうだな!それにしようぜ!」
オレ、だんだんレッダーの扱いに慣れてきたかもしれない。
「そういえばトニーもおでん食べるの?」
ランセットが思い出したかのように突っ込む。
「なに言ってんねん?マインドは固形物食べられへんみたいなの一番最初に言われてんやろ?」
「ああ…そっか……」
確かに。水を飲ませるだけでいいみたいなことになってたと思う。でも最近、ミルクとかジュースとか色々与えているんだけど、大丈夫なのかな?
その辺の仕組みがどうなっているかも明日しっかり確認しておきたい。
「あ、お兄さん。すいませ~ん!」
ランセットは店のお兄さん―――と呼ぶには無理のあるおじさんを呼んだ。
色黒で筋肉質な身体、頭には捻り鉢巻をし、短パンに前掛け。顔のしわはかなり深く、頭には白髪も混じっているが、活力のある感じが全身からにじみ出ていて、あまり年齢を感じさせない。
「あいよ~決まったかい?」
渋く男らしい声だ。
「あの、味噌田楽セットを3人分と…あと、このコたち用にお水―――」
「水やなくて、田楽の【汁(つゆ)】だけを3匹分頼むわ!」
「…………、あ、あいよっ!」
そうか…。おでんの汁だけならいけるのか。
しかもタダ(?)。
「珍しいじゃねぇか、マインドっていうペットだろ?しかも喋るとは知らなかったぜ、このクロテン」
「わ…っ!わいはクロテンやないっ!ネコ型マインド!」
トニーお約束のセリフも久しぶりに聴いた気がする。
クロテン…?えーっと…細長くて可愛い、フェレットみたいな奴だったかな?
「おう、すまねぇな、ネコちゃん。田楽の汁はまけといてやるから許してくれよな?」
「普通タダやろが!」
「トニー、やめて。恥ずかしい…」
お小遣いの少ない子どもがコンビニで大根1個と大量の汁をよく頼んだりしているが……
それよりも恥ずかしい。オレも恥ずかしいし、ランセットがとっても恥ずかしそう。
そして3分ぐらいだろうか?すぐに料理は来た。
「あいよ、味噌田楽セットお待ちぃ!あと、ペットちゃんたち用に汁も3匹分な!」
大きな大根や卵・蒟蒻・厚揚げ…あと諸々が乗った、大きな皿が運ばれていた。
別皿で味噌がたっぷり入っている。
ライバーたちにはいつものペット用(?)の厚みのあるお皿に澄んだ汁が入れられている。
「味噌は入れ過ぎると辛くなるからな!」
そう言っておじさんはライバーたちのそばにも味噌の乗った小皿を置く。
「ミユミユ!」
「くぅんくぅん!」
ライバーとコーンのお皿に、それぞれオレとレッダーが少しだけ味噌を入れて溶かしてあげる。トニーは…一人でできそうなのかな?
「熱いからフーフーして食べなよ、ネコちゃん!」
「ネコちゃんネコちゃん甘くみたらあかんで?!…味噌はたっぷり入れぇーのぉー…あちちちちちち!!舌やけどしたねん!!わい猫舌やったわ!しかも辛いねんっ!」
「トニー、やめて。恥ずかしい…」
一人漫才を見ているかのような気分になる。ランセットはさっきよりも深く頭を抱えている。
「と思って、ネコちゃん用に氷水置いとくぜ!」
おじさんは計算済みだったのか、どこからともなく氷水を出現させた。
「ばびっ…ばぶぶびぼべ…」
何を言っているのかよく分からないけどトニーは氷水で舌を冷やした。
ライバーはちゃんとフーフーして飲んでて、おいしいと言っている。コーンも少しずつ飲み、顔がとっても嬉しそうだ。ドラゴン舌と馬舌は多少熱いものにもOKみたいだ。
「とにかく、俺たちも早く食おうぜ!いただきま~す!」
待ちきれなかったレッダーが一番に箸を伸ばす。卵だ。
「じゃあオレは蒟蒻から…」
「オイラは大根にしーよおっと!」
どれもしっかりと出汁がしみ込んでいて、且つ適度に触感もしっかりある。オレは蒟蒻だけど。味噌を少しつけて…
「おう?!おいしいじゃん、これ?」
思わずオレは正直な感想が声に出てしまった。
「うん、普段味噌と一緒には食べないけど…これもこれでいいよね!」
ランセットも気に入ったようだ。
レッダーは?
「もぶ…ぼべぼばんっ…ぼお!」
よく分からないけど、とにかく猛烈にがっついていた。

