第20話
「あーっ…うまかったぜぇ……げぼっ」
「ほんと…サエラ最高だね…」
レッダーとランセットは大満足。オレももちろん大満足。
汁だけだけど、ライバーたちもおいしかったようだ。
「そしてこれからは…海で遊ぶ時間、だよね?!」
ランセットが目をキラキラさせながらビーチを向いている。
人気が疎らで、使いやすい極上の環境。普通、大型連休とか夏真っ盛りに訪れるから人込みでごった返しているイメージしかないサエラのビーチ。
もう究極だ!!
「みんな!行こうぜ!」
オレは衝動を抑えきれずに、海へと走り出した。
日差しはじりじりと肌を焼き、それを気持ちよく冷やしてくれる海の水。
透明な水の底には、白く細かい砂がはっきりと見える。
遠くの水はエメラルドグリーンのグラデーションがかかっている。
絵葉書にできそうなくらいの美しいロケーションだ。
「ディールー!」
ランセットが呼びかける。
「二人でレッダーの水着脱がそうよー」
笑顔で残酷な提案をしてきた。もちろん…
「おう、やろうぜ!」
オレの返事を聴くと、レッダーは急に慌て出し、沖の方へと逃げようとする。
水着脱がしは、大体どこの地方でも行われる定番の遊びだ。
「おいっ!こっち来んなよ!!」
必死に逃げるレッダー。だが、水の抵抗で思うように走れない。
ちなみにマインドたちは砂浜に近い、浅瀬で戯れている。
ランセットは身体をうねらせながら水の中をすごいスピードで進んで行く。
「は?!早いっ!!」
びっくりしてオレは声が出た。
キックはしていない。手で掻いてもいない。ただ身体をうねらせているだけ。競泳の選手みたいだ。
「こ、このっ!やめろ!!触ってるって!!」
水の中に潜りながらランセットはレッダーの下半身と格闘している。
そうこうするうちにオレもレッダーの元に辿り付き、参戦する。
「ランセット!今だ!上半身はオレが抑えておくから!!っつーか力強い…」
オレは暴れるレッダーの両腕を後ろから掴んで抑えるが、予想以上に遥かに強いレッダーの剛力に成す術もなく、逆にオレが上半身を封印される。
「ふっふっふっ……俺の力を甘く見るなよ…」
レッダーは腕でオレを封じ、足で水中のランセットの背中を押さえつけている。ランセットはじたばた水中でもがいている。…息、大丈夫かな…
「ディールからやってやるぜ……」
怖い顔で迫るレッダーの魔の手が水着に伸びてきた。
「ちょ…やめろよ…まじで!!」
オレは周囲をキョロキョロ見渡した。
人気は少ない。若い女の子はいない。
「ふぅ……」
じゃあ、脱がされても大丈夫か―――という訳のわからない安心感に満たされた。
そして―――
脱がされた。
レッダーの両腕がオレの水着を下ろすタイミングでオレの呪縛は解けた!
呪縛の解けた全裸のオレは、レッダーを両腕で抱きしめて、そのまま水の浮力も使って持ち上げる。
「なっ……?!」
勝利の余韻に浸ることなく、オレの反撃に驚愕の表情を見せるレッダー。
レッダーを持ち上げたことで、水中で半分くらい溺れかけていたランセットが復活して顔を出した。
「ぶっはぁぁぁぁぁーっ!!」
一瞬で大きく深呼吸をし、身動きの取れないレッダーの水着を全力で脱がす!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
レッダーの絶叫も空しく、全裸の男が二人になった。
「よし、よくやったランセット!」
オレはランセットと手を取り合い…と見せかけて。
勢いよくランセットの水着を下ろした。
「……ミユ」
「…くぅん」
「……何やってんねん」
ライバー、コーン、トニーの突っ込みが飛んできた。
全裸の男が三人になった。
そこでオレは気になる疑問をぶつけた。
「でもさ、全員脱いじゃうともうすることないよね」
テキトーに泳いで遊んだ。
プールのようにちゃんと泳げるわけでもなく、ゴーグルは持ってきてないから水中で目を開けるのもしんどいけど。なんとなくな泳ぎでも、普段泳ぐ機会が少ないせいかすごく楽しく感じてしまう。
トニーとライバーは泳げないが、コーンは少しだけ泳げた(?)。
水の中から首を出している様は、昔いるかいないかの議論が白熱したネッシーのようだった。あれ?ネッシーってほんとはいなかったんだっけ?
「よーし!次は俺、レッダー舟やるよー。乗りたい人はどうぞ~」
レッダーに掴まればどこかまで泳いで行ってくれる―――というやつなのだろうか。
オレはレッダーの足首を掴んだ。
ランセットは普通に背中に乗った。
「はい、しゅっぱーつ!」
レッダー舟は泳ぎ出した。足はオレが意地悪で掴んでいるので、手だけ犬搔きの状態でなんとか進んで行く。
「レッダー。遅いよ」
ランセットがつまんなさそうに言う。確かに早くはない。オレはこれはこれで楽しいと思うけどな。
「足掴まれてんだから、しょうがねぇだろ?」
必死に手を回しながら、なおもレッダー舟は進む。
ライバーとトニーは浜辺で砂の山みたいな何かを作っている。
コーンは水の中に入って海水浴を楽しんでいる。
沖へ30メートルくらいのところでレッダー舟は進んでいる。
足はほとんどつかないくらいの深さ。あまり行き過ぎて帰れなくなったらシャレにならない。遊んでいいのはこれくらいのところまでだろう。
しかしほんとに人気は疎らで。ちょっと怖いくらいだ。
急に。少し冷たい風が吹いた。
「ぐるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
獣の呻き声みたいな振動が響いた。
「?!」
何のことなのかわけが分からず、オレたちは周囲をキョロキョロ見渡した。
しかし…近くに何もない。
――――――上か?!
しかし、青い空が広がるばかりで鳥や飛来物は確認できない。
じゃあ―――……
「みんな!下だ、下に何かいる!!」
レッダーは舟モードを解除して、オレたちに警鐘を鳴らす。
「な……っ?!」
オレは水の中から、何か大きな塊が盛り上がってくるのを確認した。
「戻ろう!」
全員全力で浜を目指して泳ぎ始めていた。
後ろを確認する余裕なんてない。
鮫なのか謎の怪物魚なのかは分からないが、かわいい魚とかじゃないのは明らかで、間違いなく緊急事態だ。
クロールで20メートルほど泳ぐと、浅くなり足がついた。この浅さで泳ぐのは難しい。
水の抵抗で動きにくいが、このまま走るしかない。
後ろを確認すると―――
そこには3メートルほどの高さの、半魚人(?)みたいな怪物が水の中から上半身を出し、こっちを見ていた。全身は黒い。艶があって、ヌメヌメした粘膜で覆われているような体(てい)だった。宇宙から来たエイリアン…バイオハザードで生まれた謎の怪物…何かの映画で見たことのあるような外観でもあった。
「なにこれ…人間じゃ……ない……」
ランセットが驚愕して足を止めた。
「走れ!ランセット!!」
オレが叫んでランセットの手を取ろうと駆け寄るが、ランセットに怪物の手が伸びていた。
「はぁぁっ!」
近くにいたレッダーがパンチで怪物の腕を叩いた。
しかし、その腕は少しだけ歪み、さしたるダメージはなさそうだった。
「何だよこりゃ……感触がほとんどないぜ!」
レッダーの声には焦りが混じっていた。
オレはその隙にランセットの手を掴み、浜へと駆けた。レッダーも何手か応戦しながら、すぐ後から駆けてきた。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
怒りの感情を含んでいるであろう怪物の咆哮が辺りに響いた。
周辺のサーファーたちもさすがに気付いたのか、男の人が何人か駆け寄ってくる。でもほとんどの人は逃げ出していた。
「ミユ!」
オレは鳴き声で、近くにライバーがいたことに気付いた。
しかし―――
「グローブ、なんで持ってこなかったんだよ!!」
オレは自分自身に対して怒鳴りつけた。


