第21話
マインドのマスターは抽出した時にモバイルコンバーターなるものを渡される。
それがマインドの力を伝達するデバイスになっていて…。
リュニオンというマインドと同化して特殊な力を使用する際にも一役買っている。
オレはグローブ型、ランセットは腕時計型、レッダーはリストバンド型のものを普段装着しているが、海に入るからと外してきてしまったのだ。もちろん、コンバーターはそこそこの衝撃にはもちろん、耐熱・耐寒・耐電はもとより防水仕様だ。
こんな時、力が使えたら…!!
頼みの綱はレッダーの格闘ぐらいだが、何故かこいつには物理攻撃が通用しない。
ならば……
「ランセット!」
オレはランセットの方を向き、その傍にいる黒猫トニーに視線を移す。
「だめや!こいつの意識は暴走しとるわ!わいが何言うてもどうにもできへん!!」
「くそ…っ!」
トニーが悪いわけじゃない。でも、オレたちにはどうにもできないのか…?
サーファーの若いお兄さんとダンディーなおじさんたちが数人駆けつけ、何かの棒や金属を武器にして攻撃しようとしてくれてる。
だが、相手の動きを少し遅らせるだけで、ダメージは全く与えていない。
うち一人のおじさんが怪物に掴まれた。
「ぐあぁぁ……い、痛い…身体が……」
身体から煙が出ている。何か有害な液体で身体が溶かされているようにもみえる。
―――ライバー…どうしようもないの?!
「ミユ…」
困った顔でこっちを見ていた。
そこへ……
さぁぁぁぁぁぁっ。
淡い光の波が広がった。
ずっと遠く…髪の長い女の人が立っていた。
体育会系ではなく、おっとりした感じの凄い美人だ。
手をこちらに翳し、先程よりも濃い光の波が何度か放たれる。
見ているだけで吹き飛ばされてしまいそうだが、意外なことに、物理的にオレたちには何の影響もなかった。
怪物は動きが鈍くなり、苦しみ出した。黒光りしていた気味の悪い身体は紫色に変色していた。理屈は分からないが、とにかく気持ち悪い。
そこへ、銀髪の大柄な男の人が急に現れた。
―――この人は…
「ふんっ!」
レッダーや他の人の物理攻撃は全く効かなかったのに、この人は一撃の手刀で怪物の腕を叩き斬り、捕らわれていたおじさんを救出した。
そして……
「はぁぁぁぁぁぁ……」
右の拳に力を溜め、青い光が収束していく。
「アストラルディストーション!!」
ふっ!!
謎の強力な必殺技で、怪物はさっと掻き消えた。
おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
周りから歓声が上がった。
オレは呆然と立ち尽くした。
怪物をやっつけた男の人は、以前オーガーの森で黒ずくめから救ってくれたお兄さんだった。
長い銀髪を風に靡かせて、にっと爽やかな笑顔を見せる。
めちゃくちゃかっこいい…。
やがて遠くから何かの攻撃をしてくれていた女の人も、こちらに近寄ってきた。
ゆったりとした服装で、シンプルだが品のある印象だ。遠目には、お兄さんと同じ長い髪を靡かせていたが、それらを今ではフードで覆っている。日焼け防止なのかな?
「すいません、怪我されてますよね?」
女の人は透明感のある声でそう言いながら人込みを掻き分け、捕らわれていたおじさんに駆け寄る。
「ああ、それならさっき救急車呼んでるぜ!」
遠くから違うおじさんの声が聴こえた。
「いいえ、この傷は医療で回復させるのは難しいはず。私に任せてください」
そう言って、柔らかそうなきれいな手をそのおじさんに当て、温かい空気と光が溢れる。
10秒ほどで、おじさんの傷はほとんど分からなくなった。
「あれ…治ったのか…?!どうなってんだ?」
回復したおじさんはわけがわからず混乱している。
「あ…ありがとうございます…」
そう言って、女の人に軽く頭を下げた。
「良かった……では、私はこれで失礼します」
短く喜び、そそくさとその場を後にした。
お兄さんもそれについて行った。
「ディール、今の……」
ランセットが何かを言いたそうな眼でこっちを見ている。
それ以上にオレ自身がよく分かっている。
オレは迷わず砂浜を駆け出した。
「待ってください!」
呼びかけても二人は止まらなかった。
やがて近くまで寄って…
「どうした、少年?」
お兄さんは振り返って、そう言った。
「あの、助けていただいてありがとうございます。バンダナ…お借りしたままで…」
お兄さんは一瞬何の話か分からずにきょとんとするが、ややあって―――
「おお!バンダナ。といえば、森でケガしてた少年か?」
「ディールです」
「おう、ディールか。俺はエキルだ」
そういってエキルお兄さんはオレの背中を軽く叩いた。
「バンダナくらい気にするな!俺はいっぱい持ってるからな」
そう言って、はははと笑った。
「でも、今日の事にしろ、あの時にしろ。俺が弱かったから…。助けてもらってばかりで……すいません―――」
最後の方は言葉が出てこなかった。自分自身の弱さに対して―――それは男として恥ずかしいだけでなく、何より辛い。オレは友だちすら守れないんだって。そう考えたら、熱いものが目の奥から込み上げてくる。
「マインド、持ってんだろ?だったら、これから強くなりゃいいじゃねぇか!」
そう言ってエキルお兄さんはオレを軽くハグする。
その胸はすごく大きくて。すごく男らしくて。
オレは自分の小ささをすごく感じた。そして、敵わないなと感じた。
「エキル、そろそろ…」
女の人は何かに警戒しているようにも見えた。
「そうですね、行きましょう!…じゃあな、ディール」
「―――はい!」
女の人は申し訳なさそうに振り返った。
「ディール君、ごめんなさい。またどこかでお会いしましょう」
そう言って、二人は街の人込みに消えていった。
「ディールー!!」
オレを呼ぶランセットの声が後ろから聴こえてきた。
サエラ一日目の夕刻。
お風呂は設備の都合でなかった!
みんなそれぞれシャワーを浴びてさっぱりして。部屋で作戦会議だ。
「あのお兄さん、めっちゃ強ぇよな!」
レッダーがキラキラした目で言った。
「その気持ちはオレもよく分かるよ。兄貴にしたい、男が惚れる男ってやつだよね?」
うんうん頷きながらオレは言った。
「でもあのお兄さんさ、今日はカノジョ連れてたよね?すっごい美人の」
ランセットの言う通り、すっごい美人だった。
「いっぱいやってんだろうな…」
そしてエロイ妄想を始めやがった。
「でもあのお兄さん―――エキル兄ちゃんって言うんだけどさ。あの女の人には敬語使ってたし……上司?みたいな感じでもあったよ?付き合ってるとか、対等な雰囲気ではなかったけど」
「へぇ~…そうなんだ。ちょっとつまんない」
ランセットは変なとこでグレた。
「でもよ、あの強さって、やっぱマインドなんだろ?オレたちもゆくゆくはあんなになれる可能性あるってことだろ?」
レッダーは強くなることしか考えてない。
「でも、それもそうか。強くならなきゃ…ダメなんだから―――」
言葉が漏れた。
「あの変な怪物って何なんだろう?ニュースになってるよね?」
「ニュースにはなるだろうけど…新種の怪物とか、エイリアンとかしか言いようがないんじゃないか?」
ランセットとレッダーが討論を始める。
「でもなんでレッダーの攻撃は効かないのにエキル兄ちゃんの攻撃は効いたんだろう??」
「うぅ……俺、弱い…」
「くぅ~ん…」
コーンが珍しく鳴き声を挟む。何か言いたいようだ。
しかしその疑問にはトニーが答えた。
「明日―――分かると思うで―――」

