店を出て春香を追う。
春香は俺を気遣うそぶりも見せずに公園へと入っていく。
俺も少し早歩きでその背中を追いかける。
公園のベンチに腰掛ける春香、その片方へ寄った座る位置から、俺に隣へ座るようにと合図を出している。
「ったく、どういうつもりだよ」
「なにが?」
「なにがじゃないだろ、金も払わず店出てって。ありえねーだろ」
「あぁそか。へへ、大丈夫だよ。ここは私の世界なんだから。何したって罪にはならないしなんの問題もないよ」
その言葉の後ろめたさのなさを揶揄するように悪意のかけらもない笑顔で答える。
「問題ないって、いや…」
俺はそれにどう反応すればいいのかわからずに言葉を詰まらせた。
少しの間、会話もなしのおやつタイムを過ごした。
春香は公園で遊ぶ子供達を目で追っていた。
明るい顔をしていたが、その表情はどこか、寂しいものを感じさせた。
「ねぇ、悠」
「ぁ…うん。なに?」
急に振り向かれたので少し驚いてしまった。彼女の横顔を眺めていたことが少し恥ずかしかったのかもしれない。
「この世界は好き?」
「なんか、急に哲学だな」
「難しくなんかないよ。簡単で単純な事だよ」
「そういわれても……。今は余計にわかんねぇ
よ。色々信じられないことがありすぎて、もうこの世界がなんなのかとかもわかんねぇよ」
「うん………、そか。まぁ、そうだよね」
少し寂しそうにうつむく彼女、しかしあまり間をおかずに口を開いた。
「わたしはね、嫌いだよ」
うつむいたまま呟いた。別に予想してたわけではないけれど、彼女から発せられる言葉としてはちょっと意外に感じた。
「わたしはね、この世界が嫌い。私を殺したこの世界が嫌い。悠を殺したこの世界が嫌い。それでも平然と日常が流れてるこの世界が嫌い。
………前は、すごく好きだった。なんでだろうね」
涙まではいかないけれど、浮かない顔のまま苦しい声を出す。こんなときにどうしていいかわからないのは、世界に翻弄されて立ち往生してる時よりもよっぽどつらい。
「あのさ、なんとかなんないのか?」
「え?」
「なんかよくわかんないけど。生き返ったり、元の世界に戻ったり。そういうのってできないのか?神様とか創造者とか、そういうのがいてこの世界を創ってるっていうんなら、元に戻すことだってできるんじゃないのか?」
そうだ、あいつらがこの世界を創ってるっていうんなら出来るはずだ。いや、できなきゃおかしいだろ。理不尽で不条理ばかりで、それなのに自分達の願いは何一つ形にできないなんて間違ってる。こんななんでもありな世界なら何かあるはずだ。元の日常に戻れる何かが。
春香は少し驚いた様子で、荒げた僕の顔を見つめた。俺はどこか助けを請うような気持ちで、きっとひどい顔をしているに違いない。
春香は目を閉じ、少し深めに息を吐いて、重く口を開いた。
「無理だよ」
それは俺が予想していた返事。そして一番聞きたくなかった答えだった。