助けて日野山…こぃん??日野山こぃん……日野山…日ノ山公園、助けて陽ノ山公園!
ベッドから跳ね起きると上着を羽織り部屋を飛び出した。
助けてってどういうことだ、さっきから電話も鳴らしてるけど全然でない。これでもし『冗談でした~、てへっ☆』とかだったらたち悪すぎだぞ。よくわかんないけどとにかく行くしかない。俺は公園に向かって走った。
「はぁ…はぁ……」
しんどい、喉がカサカサする、こんなに必死に走ったのいつ振りだ。ここまで来ただけで若干ヘロヘロだが休んでる暇はない、春香を見つけないと。
発信を続ける携帯を耳に辺り一帯を見回す。
「どこにいんだよ…………やっぱだめか」
相手に繋がらない携帯を閉じ、辺りを散策する。夜の公園は不気味なほど静かで足を進める度に自分が砂を蹴る音が響く。
(ん?…誰かいる)
夜の暗がりの中に浮かぶ人影、はっきりとは見えないが向こうもこちらに気づいて振り向いたのがわかった。雰囲気から察するにそれが春香じゃないこともすぐにわかった。それはゆっくりとこちらに歩いてきて、外灯の下を通過する。その光に照らされ闇夜に浮かんだ姿には見覚えがあった。
「お前……巻谷か?」
そう、そこにいたのはクラスメイトの巻谷だった。
「うぐっ…ぅぅぅ……」
周囲から別の男の呻き声が聞こえる。
暗闇に目を凝らすと地面に人が倒れてる。それも一人じゃない、二人…いや三人。
そのうち、呻き声をあげているのはひとりだけ、残りの二人はぐったりと伏せて動いている気配はない。
男の呻き声に巻谷もそっちに目をやる。手に持った棒状の物を引きずりながらそちらに歩いていく。
この流れはもしかして、もしかしなくてもっ……でも体が動かない、言いようのない異様さに飲み込まれどうしていいかわからずその場から動くことができない。
巻谷は手に持っている棒を振り上げるとそのまま男の頭目掛けて……、男は小さな唸り声を最後に動かなくなった。
「あぁ……長瀬君かぁ」
公園を包む闇の中でこちらに向けられた巻谷の目が妖光を放っている。
「おまえ…なにやって……」
「あぁ、これですか?」
今しがたとどめをさして目下にうつ伏せに倒れている男を足で平返す。
そこにいたのは今朝方、巻谷をたかっていた奴の一人だ。顔を覚えていた訳じゃないけど時代遅れのコテコテな不良姿、一目見れば当人だと分かる。暗くてはっきりは見えないがおそらく他の二人も今朝の…
「なにやってんだよ………なにやってんだよ!!!」
目の前で起こっていることが理解できなかった。信じがたい非日常、テレビの画面越しでしか見たことのない非日常、ニュースで聞く事はあっても自分の目の前で起こる事なんてないと思っていた非日常。
「お返しです、今までの。やられたからやり返した。悪いですか?」
「なに言ってんだ……」
「僕は充分耐えた。もう何度も、もう何年も。でも僕は一度だけ、この一度だけ」
なに言ってんだ………なに言ってんだこいつなに言ってんだ、なんでそんな一片の迷いもない目をしてそんな事言える、おかしいだろこんなの―――
「どうしてそんな目で僕を見るの?。今朝はそんな目じゃなかった。僕より悪いこいつらの事はまるで遠くの風景でも見るかのように眺めてただけなのに、なのに僕の事は悪いみたいに」
「だって巻谷、おまえこれは―――」
「じゃあ僕が悪いの?こいつらは悪くなくて僕は悪いの?」
「それは…」
「悪いのはこいつら、ずっと僕をいじめてたのはこいつら。僕だけじゃない、他にもこいつらにいじめられてたやつはいる。こいつらはいらないやつらなんだ」
「いらないって…けどだからって殺していいわけないだろ。もっと他にあったろ。もっとこう~~相談するとか」
「そんなこと、誰も助けてくれない。みんな知っててもなにもしてくれない。見て見ぬフリ。長瀬君だってそう、今朝見てたよね?」
「それは…まぁ…」
「みんな面倒なんだ、誰も関わりたいとは思わない」
「………」
「でもそんなこともうどうでもいいんだ。そういうことじゃなかったんだ。みんな普通の事なんだ。こいつらが僕をたかった事も。みんなが助けてくれなかったことも。僕がこいつらを殺したことも」
「う…ぅぅっ」
巻谷の足元で倒れていた男が微かに声を漏らす。
「まだ生きてたんだ」
巻谷は男に止めを刺すべくバッドを振り上げた。
「おいよせっ!」
「だったら止めたら?」
「春香?!」
聞き慣れた声のした方を見ると春香が遊具の上に座っていた。