樹木の間の光の屈折では神々にも愛された白痴の
裸足は
その森を出て
都会の建造群の中に移っては
住人たちの網膜に結ばれる像
は見向く価値のない一(いち)ホームレス
であって、引き篭(こも)って自意識の眼ばかりギラつかせるような太陽の変貌ぶりには魔のさしたような時の同情以外は一切無関心に裸足はリヤカーを引き引き、逆さまの空を探さなくちゃという口癖を連れて漸くその河川敷まで辿り着いたのです。一方のぼくは暗渠を這い走る蟹となって彼の気配を追い続け、その間世捨て人に見捨てられた世の人々の足音などもはやぼくのこころには生き物のそれとして一片の郷愁も呼び起こさなかった。さても辿り着いた河川敷にはひかりの雨の絶え間なく降りそそぐこと!逆巻く川面より数万の水鳥の形象の一斉に誕生し翔び立ちゆく異観は裸足とぼくに発語を忘れさせました。
やがて遠い空よりあの懐かしい哄笑とともに森の神々が麗しく渡り来る御様を認めたときには
白痴の裸足も蟹のぼくも
随喜の涙をもって迎えざるを得なかった。
ー と、上下も縦横も正面も背後もない中空に凄まじい速さで火球の落ちていく今この時間に対していると、こんな出鱈目を抱えたりもするものです 。
森を身篭る
夜眠る鳥の いつしかは
人となる 驚きに
醒めることさえ なければ
深い眠りの いつしかに
人は鳥となる 夢のなか
鳥と人とは 挨拶かわし
砂になる
砂からの 音が生まれる
音の中に 海は生まれる
指先のひとつまみ ふたつまみほどが
旅に出よう
風として
使命を負って
無闇やたら 鳴く蝉の
夜は 月の誘(いざな)いに
旅立ちながら
旅しながら
使命とは 鹿の姿に似ゆく謂(いい)
鹿の姿は 月へと向かう
闇の柱 双極の光に
夜光る森の
いつしかは
影を伸ばす 慰め梳かす髪のように
影は伸びゆく
街の辻々を 翠玉に
不実に不透明を唄う
生命運びつ 足音は
濡れて 響く
あなたの 乳飲み子は
あなたの孕む 森を見ている
身籠る森に 鳥を見ている
身籠るあなたの 森は豊かだ
木のなかに 魚も泳いで昇る
身籠るあなたの 森の木には
魚の泳いで 昇るのが見える
小フーガト短調 やみ
目を覚ました 部屋の
窓から
少女がひとり 森へと向かって
駆け出す
道が見える
すべてを思い出すまえに
わたしは 部屋を出て
すべてを思い出すまえに
道は甦(よみがえ)り
少女は駆け出す 森へ
眠る鳥を目覚めさせる
使命それ故 鹿の奮(ふる)えに
夜眠る鳥の
いつしかは
人となり
人となり
ひとつ夜の
波に攫われ 官能の
深みの中に 目覚め夢見る
坊や起きるな 起きてはならぬ
無闇やたらと鳴く蝉の
夜ぽっかりの 月の穴
落ちては
鳥になりまする
明る夜 鹿の
いつの間か
かなしみは
かなしみに
人の声いろ
愁いに鳴いて 彷徨えば
茂みの露の落つ ひと処(ところ)
坊や起きるな 笑(わろ)てもならぬ
夢の中とて笑(わろ)うては
いまは 眠れる鳥なれば
鳥の夢見て 人でなし
戻れぬ
鳥の子のままに
夜眠る森の
いつしかは
影のばし
影のびて
街の辻々
影に攫われ 樹々の風
樹々の根の水 夢見て醒(めざ)む
坊や寝かせろ 揺すってはならぬ
姿は 人の世にあれど
いまは み魂の鳥なれば
夢見つ鳥の 巣ごと落ち
還らず
森の奥の 夢より
枕して眠る女の
いつしかは
葦よりの
渡し舟
ひとつ宵
情に攫わる 官能の
深みの中に われの子宿し
われの子か 鳥の子宿し






