北のほうは大雨で
河が氾濫しているというのに
南北に長い日本で
こちらはしっとりとした雨の闇に包まれて
誰かに恋をしたい気分
な奇妙
北のほうでサイレンは
鳴り止まないでいるかも知れず
こちらに今 僕の部屋では
スタン・ゲッツのサクソフォーンに
ドラムがリズムを刻んでいる
ことの奇妙
誰かの失恋が泣かれているときに
産み落とされた誰かが泣いている
誰かが呆然と立ち尽くしているとき
その時の雨は路傍の石を
濡らして過ぎゆく
静かである ことの奇妙
世界が 誰かに恋する気分で できてくものなら
その世界の外側もまた
恋する気分で できてくもの
飛び上がる蛙の下で
水面の輪っかが拡がってゆく
果てしなく 果てしなく
世界の輪郭を押し進むよう
雲を崩して
そこではじめて 雲が 映るものだと知って
世界の輪郭を
惜しみゆくように