認知神経科学4
脳の構造と機能6
シナプスの構造
前回までに、どのようにして活動電位が生じ、
その信号が軸索を伝導されるのか説明しました。
今回は、軸索終末に達した電気信号が
次のニューロンへとどのように信号伝達されるのかを
理解するための前提として、
シナプスの構造についてお話ししたいと思います。
神経系は、1000億以上のニューロンの
複雑なネットワークで成り立っています。
すなわち、1つのニューロンと他のニューロンが
連絡し合っているわけです。
ニューロンからニューロンへの信号伝達を行う
接合部分のことを神経科学では、
シナプスsynapseと呼びます。
そしてシナプスにおける情報伝達過程を
シナプス伝達synaptic transmissionと言います。
シナプスには2種類があります。
ニューロンからニューロンへ
電流が流れるシナプスを電気シナプス、
ニューロンからニューロンへ
化学物質を介して伝達されるシナプスを化学シナプスと言い、
現在脳内シナプスのほとんどは、
化学シナプスであることが分かっています。
では、電気シナプスと化学シナプスの
構造について説明をします。
電気シナプスでは、
細胞から細胞へ直接イオンが流れます。
ザリガニの感覚ニューロンと運動ニューロンの間などで
電気シナプスの存在が確認されており、
その伝達速度は非常に速いです。
電気シナプスは、
6個のコネキシン(特別なタンパク質)が
結合してできるコネクソンというチャネルが
2つ結合した、ギャップ結合からなり、
このチャネルをギャップ結合チャネルと言います。
このトンネルは、孔の直径が1~2μmです。
イオンは両方向に等しく流れます。
イオンが流入すると、
シナプス後電位が発生しますが、
それはあくまで両方の細胞で起こります。
電気シナプスに関しては、
あまりここでの議論の中心にはならないので、
これくらいで終わっておきます。
脳内シナプスのほとんどは、化学シナプスです。
化学シナプスの構成要素は、
大きく、シナプス末端、シナプス間隙、
シナプス後膜からなります。
シナプス末端というのがシナプス前細胞の最後、
シナプス後膜というのは次の細胞、
そしてその間の隙間がシナプス間隙です。
シナプス間隙があるのかないのかは、
19世紀末にゴルジとカハールの論争がありましたが、
20世紀半ばになって、電気顕微鏡の開発により、
カハール説が正しいことが実証されました。
即ち、シナプス間隙は存在するということです。
この隙間があるがゆえに、
シナプス前細胞は、間隙に化学物質を放出して、
それを次の細胞に作用させることで
情報伝達を行うことになります。
この物質を神経伝達物質neurotransmitterと言います。
次の細胞には、その神経伝達物質を受け取る部分があり、
この部分を神経伝達物質受容体
neurotransmitter receptorと言います。
これは長いので、以下では受容体と呼びます。
シナプス前細胞の終末には、
分泌顆粒とシナプス小胞があります。
これらは両方とも伝達物質が入った袋です。
分泌顆粒secretory vesicleは、
直径約100nmの大きな有芯小胞です。
シナプス小胞synaptic vesicleは、
脂質二重膜で囲まれた
直径約50nmの球状構造物です。
それぞれ含まれる物質の種類が違いますが、
そのことは次回お話しします。
これらの中に含まれる物質は、
シナプス前細胞の終末の膜=膜分化と融合して
シナプス間隙へと放出されます。
シナプス間隙は、20~50nmの隙間です。
ここは繊維質の細胞外タンパク質の基質で満たされます。
伝達物質はここを泳いでいって、
シナプス後膜のシナプス後肥厚部にある受容体に結合し、
選択的にイオンを透過させて、
次のニューロンの電位変化をもたらします。
それでは次回は、
神経伝達物質について、
そしてシナプス伝達のメカニズムについてお話しします。