脳神経科学20
前頭葉3
前頭前野の機能
前回は、神経心理学的な研究を紹介しました。
今日は、神経心理学の研究、
および脳機能イメージングの研究から解明されてきた、
健常者における前頭前野の機能について概説します。
前頭前野のうち、現在、
最も注目されているのが、背外側前頭前皮質
dorso lateral prefrontal cortex:DLPFCです。
今回は、DLPFCの機能についてお話しします。
加えて明日は、眼窩前頭前皮質の機能をお話する予定です。
前頭葉の機能は、主に、
大きく3つを挙げることができます。
1つ目は、知識の再構造化です。
知識というのは、構造を持ち、心的表象として、
生物学的基盤としては、側頭葉に存在するとされます。
その知識を再構造化するのが、前頭葉の役割の1つです。
そのときに重要になるのが、
外界に存在するルールに基づいて行動することです。
どんだけたくさんの知識を持っていても、
現実の場面に応じて使えなければ前頭葉は機能していないわけです。
前頭葉が機能するということは、
持っている知識を、現実の場面に応じて使えるということです。
2つ目は、内的運動制御系です。
運動制御系は、外的系統と内的系統に分けられます。
外的系統は、頭頂葉、小脳、第1次運動野、前運動野を含む、
感覚情報に応じて反応をするシステムです。
だから、見えたら手を伸ばす、聴こえたら体を動かす、
ただそれだけのことをするだけです。
内的系統は、前頭前皮質DLPFC、基底核、補足運動野を含む、
情動情報・動機づけ情報などの影響を受けつつ、
感覚情報も吟味しながら、
記憶をひっぱり出して、計画をするシステムです。
この2つがそろうことで、
現実に応じた行動をつくることができますが、
前頭葉を損傷している=内的系統を喪失すると、
いらない行動を抑制することができなくなり、
感覚情報だけに基いて行動をしてしまいます。
したがって、利用行動が増えるということになります。
3つ目は、ワーキングメモリです。
ワーキングメモリworking memoryとは、短期記憶の一種で、
今行っている認知活動に必要な情報を、
感覚知覚系および記憶系から得て一時的に保持し、
その情報を操作・処理する情報処理システムです。
操作・処理の中には、
情報の置換・変更・更新が含まれます。
この機能をDLPFCが持っています。
ワーキングメモリを測定する課題に、
n-back課題というものがあります。
この課題では、言語的あるいは視覚的な刺激を
次々に呈示をしていきます。
そのとき、被験者は、その刺激が、
n個前の刺激と同一であるかを判断します。
nには、1や2や3といった数字が入ります。
例えば、n=1であれば、
ASD・・・と刺激が呈示されて、次にDが出たらyesです。
例えば、n=2であれば、
ASD・・・と刺激が呈示されて、次にSが出たらyesです。
例えば、n=3であれば、
ASD・・・と刺激が呈示されて、次にAが出たらyesです。
nの値が大きくなるほど成績は低下します。
この課題をするために必要なのは、
言うまでもなく、ワーキングメモリです。
必要な情報を保持しておいて、
そのあとに呈示される刺激に対して判断を行います。
また、1試行が終わるたびに、
その情報をリセットしなければなりません。
どんどん次の課題が来るからです。
したがって、回数を重ねるほど、成績は低下します。
あまりにnの値が高い、例えば5になると、
もう前頭葉は機能しません。
逆にn=1のときもほとんど働きません。
だから、前頭葉は、課題が十分に難しく、
適度に頭を使うというときに働きます。
では、ワーキングメモリがどういうものなのか、
ということについて、あさってからお話しします。
明日は、感情についてです。