脳神経科学19
覚醒と睡眠2
覚醒

今日は、覚醒しているとはどういうことかについて、
感覚の根本的な役割という視点からお話しします。

感覚遮断実験は、woodborm&Heron(1957)の実験が有名で、
現在は禁止されている人間を使った実験です。
この実験の背景を簡単に説明します。
2次大戦中、連合軍はレーダーでドイツ軍を監視していました。
そのとき、30分ほど何もうつらない時間が続くと、
そのあとにレーダーにうつっているにもかかわらず、
監視員が見落とすということが続きました。
そこで、感覚刺激がなくなるとどうなるのかを知るために、
この感覚遮断実験が計画されました。

被験者は大学生で、
1日中実験室で横になります。
その際、視覚と聴覚と触覚を遮断します。
目には一様な散乱光を見せ、パターンをなくします。
耳には弱いホワイトノイズ付きのヘッドフォンをし、
外の音が一切聴こえないようにします。
皮膚は、手袋やまくらなどにより、刺激を一様にします。

結果、思考、情動、知覚などに幅広い影響を与えました。
第一に、知的な作業の遂行が困難になりました。
第二に、幽霊などが見えて怖いと言うようになりました。
第三に、集中できなくなり、思考を制御不能になり、
幻覚や幻聴が出現するようになりました。

さらに脳科学的な研究が進んだ結果、
感覚の基本的な役割が解明されてきました。
感覚の根本的な役割とは、見たり聴いたりして、
それが何であるのかを知ることではありません。
感覚がもつ第一に大事な役割とは、
脳の覚醒状態を維持することです。

脳は、常に、2つの状態のうちどちらかにあります。
それは、on-line状態かoff-line状態かのどちらかです。
on-line状態とは、皮質が活動している、覚醒している状態、
off-line状態とは、皮質が活動していない睡眠時です。
皮質を覚醒させるために必要なのが、外的刺激なのであり、
逆に言えば、刺激がなければ皮質はoff-lineになります。

感覚刺激は、覚醒中枢である脳幹網様体に入力されます。
ここから大脳皮質へ神経伝達物質が放出されることで、
大脳皮質が活性化し、いわゆる起きている状態になります。
また、徹夜などをして「寝てはいけない」と思っているのは、
大脳皮質から脳幹網様体に出力して、
脳幹網様体から大脳皮質への覚醒指令を強化しています。
これが、脳幹網様体賦活説です。

実験の内容を見れば分かりますが、
刺激は与えていても、その刺激は一様でした。
一様とは、刺激に変化がないということです。
ホワイトアウト現象は、
まさに、あたりが一様に真っ白であるから起こります。
つまり、脳幹網様体を活性化させるためには、
変化のある刺激を受容する必要があります。
逆に言うと、単純な状態にさらされると眠くなるのです。
動物を見ても分かりますが、
動き回りながら睡眠をとっている動物は、
一部例外を除いてほとんどいません。

ヒトも含めて動物が起きているというのは、動くということです。
動くということは、感覚刺激が変化するということです。
逆に、刺激に変化がないのは、動かない状態です。
このように、動き回るときに大脳皮質を覚醒させ、
それ以外のときには、睡眠をとるわけです。

探索動因に対する誘因があるときには、覚醒し、
探索動因に対する誘因がないときには、睡眠をとる、
このような方法を採用しているということです。

退屈だと眠ってしまう。
授業で寝るのは個人が自由にすればいいのですが、
個人の自由では済まない場合が、高速道路です。
まっすぐで長時間同じ状態が続くと、
感覚遮断状態と同じ状態に陥ります。
つまり、覚醒反応が低下し、幻覚が起こりやすくなります。
それは、交通事故を起こすことを意味します。
高速道路で事故を起こさないためには、
1つは、話したり、何かを飲んだりすること、
もう1つは、パーキング・エリアで休むことです。

このように、感覚刺激の根本的な役割とは、
大脳皮質を覚醒させることにあります。

明日から、睡眠についてです。