脳神経科学17
学習1
学習の心理
今日は、学習の心理学的な区分についてお話しし、
次回以降の詳しい学習研究を理解する枠組みとします。
学習learningとは、
経験による比較的永続的な行動の変化です。
動物は、これをできることによって、
環境が変化しても、それに適応するために、
自らの行動を変化させることができるのです。
つまり、環境に適応するために、
経験を通して、行動を変化させることが学習です。
したがって、心理学においては、
短期的あるいは突発的な行動変化は、学習には含みません。
ヒトの学習形態には、大きくの3つの方法があります。
知覚的学習、連合的学習、洞察学習です。
知覚的学習と連合的学習は、哺乳類は持っている方法、
洞察学習に関しては、霊長類のみが持つ方法です。
知覚的学習perceptual learningは、
弁別学習、技の習得、観察学習からなります。
これらの学習は、外発的なきっかけによるものではなく、
内発的に動機づけられて、知覚的に問題点を発見する学習で、
ものの見方や認識、態度、期待などの認知構造の変化です。
だから、今までに見えなかった・聴こえなかったものが
見えるようになる、聴こえるようになることです。
例えば、今の自分にとってアラビア文字は単なる模様であっても、
アラビア語を勉強することによってそこに意味が見出せます。
つまり、今までに見えなかったものが見えるようになったわけです。
それに対して、連合的学習associative learningは、
非常に強力に働くもので、
意思と関係なく、身に付いてしまうものです。
主に、古典的条件づけとオペラント条件づけがあります。
古典的条件づけというのは、
生得的に持っている反射反応が経験によって変化すること、
オペラント条件づけというのは、
生得的には持っていない行動を経験によって獲得することです。
この心理メカニズムについては、明日詳しく説明します。
もう1つ、霊長類に見られる学習に、
洞察学習insight・問題解決problem solvingがあります。
これは、まず、ある行動を成し遂げるにあたって、
今現在、その障害となっているものを認知し、
過去経験や現状の検分を心的表象として行い、
道具を使用して、その障害を取り除いて、問題解決することです。
即ち、頭を使って、思考して、問題解決することであり、
人間の場合は、思考の際に言語を使用します。
人間は洞察学習ができるからこそ、
人間がその歴史を勉強することに意味があるのです。
つまり、過去にどういうことがあったかは記録として残っているので、
それを過去経験とすることによって、
自分が実際に戦争を経験していなくても、
戦争がどういうものなのか、人類の経験として知ることができます。
このように、ヒトがもつ学習形態としては、
知覚的学習、連合的学習、洞察学習があります。
教育の最終的な目的は、洞察学習ができるようになること、
つまり、今までに身につけた知識を引用しながら、
目の前の問題を解決できることです。
そのために、基礎的な学習として、
弁別学習や条件づけ学習があります。
明日からは、心理学や神経科学領域で
最も研究されてきた連合的学習について詳しく説明します。