脳神経科学15
注意9
視床枕核、前頭眼野、V4
今日は、どのようにして注意が向けられるのか、
注意の生理メカニズムとして、
現在分かっていることの基本についてお話しします。
現在言われているのは、感覚皮質を、
他の皮質や皮質下構造が修飾しているということです。
では、その具体的な例として、
視床枕核と前頭眼野、
そしてV4について説明します。
視床枕核pulvinar nucleusは、
視床のうち後部に位置する神経核です。
この部位は、V1,V2,MT,頭頂,下側頭
などの視覚皮質と相互連絡しています。
この視床枕核は、左半球と右半球にそれぞれありますが、
片方の視床枕核を損傷することによって、
それと反対側の視野への注意が減少・遅延します。
例えば、左の視床枕核に障害をもつと、
両眼右視野への注意が減少・遅延します。
したがって、視床枕核は、
その視床枕核がある側の視野と
反対側の視野にある物体への注意に関連するとされます。
また、サルの視床枕核への薬物投与の実験がありますが、
例えば、GABA作動薬であるムシモールを注入すると、
それと反対側の視野に注意を向けなくなります。
また、GABA拮抗薬であるビククリンを注入すると、
それと反対側の視野により注意を向けるようになります。
このようなことから前述したようなことが言える一方で、
上丘や後部頭頂皮質の損傷で
これと同じような行動変化が起こる例、
一側ではなく両側の視床枕核を損傷しても
注意障害が起こらないという例もあり、
安易に、視床枕核が注意の中枢であるとは言えません。
そうでありながらも、
注意に関与する部位の1つではあります。
次に、眼球運動に関与する部位として、
上丘と前頭眼野が挙げられますが、
そのうち前頭眼野についてお話しします。
前頭眼野frontal eye field(FEF)は、眼球運動saccadeに関与し、
関心のある視覚刺激を中心窩に結像させる役割を持ちます。
この部位に対しては、
V2,V3,V4,MT,頭頂皮質から直接入力がなされ、
眼球への運動指令によりsaccadeが生起します。
前頭眼野は、視野の中に運動領域motor fieldを持ちます。
運動領域とは、受容野のようなものと考えて大丈夫ですが、
視野の特定の部分を担当する前頭眼野ニューロンが興奮すると、
その視野部分へsaccedeを起こさせる、そういう領域です。
つまり、前頭眼野に視野のマッピングがあって、
視野A点へ注意を向けるときには、ニューロンAが、
視野B点に注意を向けるときには、ニューロンBが発火し、
逆に、A点に対してニューロンB、
B点に対してニューロンAは発火しないということです。
これを踏まえて、Tirin Mooreによって行われた
マカクザルの実験(2000)を紹介します。
まずサルがコンピュータ画面を見るように訓練します。
訓練には非常に苦労と時間がかかるのですが、
ここでは、すでに訓練したものと設定します。
コンピュータ画面上には3つのポイントがあります。
1つ目は、固視点で、この点を固視します。
2つ目は、標的スポットで、サルはここに注意を向けます。
3つ目は、注意妨害スポットで、無視しないといけない刺激です。
こういうふうに標的スポットに注意を向けるときに、
同時に注意妨害スポットがありますので、
サルはそれを無視して、
標的スポットに集中しなければいけません。
本当に注意を向けていることを確認するために、
サルにレバー押しをさせます。
標的スポットが暗く変化したとき、レバーを動かし、
標的スポットが変化しないとき、レバーを動かさないとし、
それによって、注意を向けていることを確認すると同時に、
サルの明るさの検知閾値を測定します。
次に、前頭眼野に電極を刺して、
あるニューロンの運動領域を特定します。
つまり視野と前頭眼野ニューロンの関係です。
更に次に、前頭眼野に対して眼球運動を起こさせないくらい
弱い電流を与えて、検知閾値の変化があるかどうか測定します。
結果、標的が運動領域内にあるときには、
閾値は10%低下=感度・成績が上昇し、
逆に、標的が運動領域外にあるときには、
閾値は5%上昇=感度・成績が低下しました。
そしてこの注意を向けている対象が運動領域内である場合の
微小電気刺激による成績上昇と、
ポズナーの実験での検知力増加は類似していると言えます。
さらに、前頭眼野の活動がV2やV4といった
感覚皮質へフィードバックしているとすれば、
それは注意の促進をしているのでしょうか。
それを調べるために、まず、
前頭眼野ニューロンの運動領域と一致する
V4野受容野を特定して、電極を刺しました。
そして、前頭眼野へ電気刺激することによって、
V4野の活動が増加することが確認されました。
よって、前頭眼野の活動は、眼球運動を引き起し、
見る必要のある対象を中心窩に結像させると同時に、
感覚皮質へフィードバックし、注意を促進していると言えます。
昨日は頭頂葉での反応増大についてお話ししましたが、
それがあったあとに、頭頂葉の他、
さまざまな視覚皮質からの情報とともに、
前頭眼野へ入力されて、それがsaccadeを起こすと同時に、
その感覚皮質へのフィードバックによって、
注意機能を促進しているとまとめることができます。
注意というのは、ある対象へ注目することによって、
必要な情報だけを有効に使い、
逆に必要のない情報を無視することができる機能です。
これは、脳の情報処理有限性という性質から考えて重要な機能です。
そのとき、限られた情報処理をどの情報に使うのか、
を決めることが生存にとっても大事になります。
今日で注意の説明を終わります。
次回からは、記憶についてお話しします。