脳神経科学15
認知と注意8
頭頂葉の反応とV4受容野の変化
今日は注意に関連した2つの動物実験を紹介します。
ある対象に注意を向けるというとき、
顕在的注意と潜在的注意があるわけですが、
確かに潜在的注意も可能ではあっても、
結果的に多くの場合、眼球運動を伴う顕在的注意になります。
眼球運動をすることで、
見る必要のある対象を中心窩に結像するのです。
しかし、saccadeが200msecかかるのに対して、
注意の移動自体は50msecで起こり得るという実験的事実があり、
したがって、眼球運動によって注意が向けられるのではなく、
注意が向けられた結果、眼球運動が起こる可能性があります。
それを検証した実験を1つ目に紹介します。
2つ目には、V4という高次視覚野についてです。
V4にある1つのニューロンの特性を調べていくと、
そのニューロンの受容野内の異なる部位への注意によって
あたかも受容野が変化したかのような反応が見られます。
そのことについて実験をもとにお話しします。
1つ目の実験では、サルにある課題をしてもらって、
そのときの後部頭頂皮質のニューロン活動を測定します。
この皮質は全視野の25%の受容野を持っていて、
眼球運動の指令を出すことに関与していることが分かっています。
実験ではサルにコンピュータ画面を凝視させますが、
そのときある位置に標的があらわれると当然saccadeをして
中心窩に結像させようとします。
そのときに、後部頭頂皮質のニューロンの受容野を調べ、
その受容野である視野に刺激提示することで、
特定のニューロンが興奮するという、
視野とニューロンの関係を明らかにしました。
つまり、あるニューロンの受容野内に刺激提示すると、
群発性の発火が起こり、そのあと、saccadeが起こるわけです。
しかし、受容野外だと発火は起こりませんので、
その発火は視野内での空間に選択的であると言えます。
これが、そのニューロンが担当する受容野内に
注意がうつったせいなのか、それとも、
頭頂葉ニューロンは眼球運動の符号化をしているのか、
ということを調べるために、反応行動を手の動きにして調べると、
受容野内で反応が増大しました。
したがって、saccadeに先立った頭頂葉での反応増加は、
そのニューロンが担当する受容野に注意が向いたことと
関係するという結論に達しました。
これをおとつい説明したポズナーの実験と対応づけます。
ある手がかり刺激があるときに、
検知能力が増加し、反応時間が短縮されました。
それは視野内のその位置を担当するニューロンの反応増大
によって起こったものであると言えます。
次に2個目の実験を紹介します。
例えば、V4には受容野内にある
赤に反応するニューロンがあります。
その1つのニューロンについての実験です。
このニューロンは、垂直水平の赤線に反応し、
垂直水平の緑線には反応しません。
なので、赤色は有効刺激(a)、
緑色は無効刺激(b)であると言えます。
実験ではサルで行うわけですが、
まず赤と緑の2つの刺激が呈示されます。
そのあと、もう1度呈示されます。
この2つで受容野内の注意を向けている領域で
同じ刺激だったときは、一方向へレバーを押し、
逆に受容野内の注意を向けている領域で
異なる刺激が呈示されたときは、反対へレバーを押す、
ということをまず訓練して、身につけさせます。
受容野内には、aという刺激とbという刺激が与えられ、
そのそれぞれに注意を向けているときの
V4ニューロンの反応を調べます。
結果、aに注意を向けているときには、
V4ニューロンは強く反応しました。
しかし、bに注意を向けているときには、
V4ニューロンの反応はその半分以下でした。
このように、あたかもV4ニューロンの
受容野の範囲が変化したかのように見えます。
今日は注意に関連した実験を2つ紹介しました。
明日は、どのように注意が向けられるのか、
ということについて、今日と関連した実験を考察し、
注意のまとめとしたいと思います。