脳神経科学5
脳の構造と機能5
シナプス伝達
前2回で、静止膜電位と活動電位について説明しました。
神経系を構成するニューロンにおける電気信号の伝播とは、
細胞内が約-65mvに帯電している静止膜電位が
1000分の1秒間正に帯電する活動電位であり、
それは、連鎖的に軸索上を伝わっていきます。
今日は、軸索終末に達した信号が、
次のニューロンへ情報伝達される過程、
即ち、シナプス伝達についてお話しします。
まず最初に、シナプスの種類や構造について、
そのあとに、4段階に分けてシナプス伝達の原理を説明します。
シナプスsynapseという名前は、
1897年にシェリントンがつけたものですが、
その実体が解明されるのは、もう少しあとです。
シナプスには、電気シナプスと化学シナプスの2つがあります。
電気シナプスは、1959年にザリガニ研究から発見されたシナプスで、
あるニューロンからあるニューロンへ電流が流れて情報伝達されます。
化学シナプスは、1921年にレーヴィによって発見されたシナプスで、
あるニューロンからあるニューロンへ化学物質を介して情報伝達を行います。
脳内にあるほとんどのシナプスが化学シナプスです。
では、順番にその構造について述べます。
電気シナプスは、特別なタンパク質であるコネキシンが
6個結合することで形成されるコネクソンが2個結合した
直径1~2μmの孔をもつイオンのトンネルであり、
非常に伝達が速く、両方向にイオンが流れる性質を持ちます。
哺乳動物の中枢神経系にはどこにもありますが、
ほとんどのシナプスは、化学シナプスです。
化学シナプスは、シナプス前細胞とシナプス後細胞、
その間にある隙間であるシナプス間隙からなります。
シナプス間隙は、20~50nmの隙間であり、
シナプス前細胞から放出された神経伝達物質が
この間隙を泳いでいって、シナプス後細胞の受容体に作用し、
特定のイオンを通すことで信号が伝達されます。
ではもう少し、化学シナプスの構造について説明します。
軸索終末には、神経伝達物質を貯蔵する
シナプス小胞と分泌顆粒があります。
明日述べる神経伝達物質には、
アミノ酸系、モノアミン系、ペプチド系の3種類があり、
シナプス小胞に蓄えられるのはアミノ酸系、モノアミン系の物質、
分泌顆粒に蓄えられるのはペプチド系の物質です。
また、伝達物質が放出される膜部位を活性帯、
シンプス後細胞の受容体が含まれる膜部位を
シナプス後肥厚部と言います。
そして、受容体は、神経伝達物質と結合することで、
あるイオンを透過させてシナプス後細胞の電位を変化させる、
化学シグナルを電気シグナルに変換するものです。
では、次に、シナプス伝達のメカニズムについて、
神経伝達物質の合成と貯蔵、
神経伝達物質の放出、受容体における反応、
シナプス間隙から神経伝達物質を除去する過程の4つに分けて、
説明をしたいと思います。
神経伝達物質には、
アミノ酸系、モノアミン系、ペプチド系の3種類があります。
アミノ酸系には、
GABA、グルタミン酸、グリシンなど、
モノアミン系には、
アセチルコリン、ドーパミン、エピネフリン、
ヒスタミン、ノルエピネフリン、セロトニンなど、
ペプチド系には、
コレシストキニン、ダイノルフィン、エンケファリン、
甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンなどがあります。
よく、GABAは抑制性神経伝達物質で、
グルタミン酸は興奮性神経伝達物質であると言われますが、
その定義は、厳密に言えば正確性に欠けます。
例えば、網膜にある双極細胞には、
ON型とOFF型の2種類がありますが、
どちらにもグルタミン酸が作用します。
だから、グルタミン酸は、ON型に作用して脱分極させますが、
逆にOFF型に作用することで、過分極させます。
よって、グルタミン酸は興奮性であるとは言えないわけです。
次のニューロンに起こるのが
興奮性であるのか、抑制性であるのかは、
どういう神経伝達物質が作用するかではなくて、
それによってどういうイオンを通すかによるのです。
ただし、中枢神経では、グルタミン酸はほとんど興奮性であり、
GABAはほとんど抑制性に働きます。
ではこのような神経伝達物質は、
どのようにして合成され、貯蔵されるのでしょうか。
シナプス小胞と分泌顆粒とでは、
合成・貯蔵の過程が異なります。
シナプス小胞に含まれる神経伝達分子は、
軸索終末の細胞質ゾルで合成されます。
特別な輸送体タンパクによって小胞内に濃縮されます。
分泌顆粒に含まれる伝達物質は、細胞体で合成されます。
粗面小胞体において合成されたペプチド前駆体は、
ゴルジ装置で活性ペプチドとなり、
ゴルジ装置の出芽として切断された分泌顆粒は、
軸索輸送で軸索終末に輸送されて貯蔵されます。
次に、神経伝達物質の放出過程についてです。
軸索終末に活動電位が到達すると、
神経終末が脱分極します。
すると、電位依存性Ca2+チャネルが開口して、
細胞外のCa2+が急激に細胞内へ流入します。
細胞内のCa2+濃度が上昇すると、
シナプス小胞の膜とシナプス前膜が融合して、
神経伝達物質がシナプス間隙へ放出されます。
なお、分泌顆粒からの放出には、
高頻度の活動電位が必要です。
次に、受容体の反応についてです。
シナプス間隙へ放出された神経伝達物質は、
シナプス後細胞の受容体に作用して、あるイオンを通します。
受容体には、伝達物質作動性イオンチャネルと
Gタンパク質共役型受容体の2種類があります。
伝達物質作動性イオンチャネルは、
神経伝達物質が細胞外のある部位に結合することで、
化学的な構造変化により、開口してイオンを通すチャネルです。
Gタンパク質共役型受容体は、修飾作用を持ち、
2次メッセンジャーを介して、実行蛋白質を活性化させます。
このようにして、次の細胞にイオンが流れ込みます。
そのイオンが+であれば、興奮性シナプス後電位=EPSP、
そのイオンが-であれば、抑制性シナプス後電位=IPSP
が発生することになります。
最後に、神経伝達物質の回収についてです。
受容体に作用した神経伝達物質は、次の3つの方法で回収されます。
1つ目は、単純拡散。
2つ目は、トランスポーターによるシナプス前細胞への再取込。
3つ目は、酵素による分解です。
今日は、シナプスにおいて、
どのように情報伝達を行うのか説明しました。
明日は、例を挙げつつ、神経伝達物質について説明します。