脳神経科学5
脳の構造と機能1
神経系の概観

今日まで人体解剖生理を中心とした生物学基礎と
神経科学の歴史、方法について概観してきました。
今日からは、それらを基礎として、
脳と精神機能の関係を、さまざまな側面からお話しします。
まず、今日からしばらくの間、脳の基本構造と機能について、
そのあと、感覚知覚系を中心に、
認知、注意、運動、記憶、学習、情動、
動機づけ、覚醒と睡眠、前頭葉の各論を述べ、
脳の発生発達、進化、社会的認知について述べます。

今日は、生理心理学の基本と
神経系の全体像についてお話しします。

まず最初に、生理心理学とはどのような学問なのか説明します。
生理心理学とは、実体のある生物学的存在である脳と
実体のない精神的存在である心との関係、
即ち、脳の精神機能の解明を、実験的に行う学問です。
その前提は、このような心身一元論はもちろんのこと、
大脳機能については、局在論であり、
いわゆる全体論ではありません。
しかし、現在、各脳部位が独立しているという意味の局在ではなく、
機能局在しつつ、各脳部位が連携しながら、
細胞集団として特定の精神機能が実現されているという、
分散コントロールを含む局在論が支持されています。

研究の方法は、以前お話ししたように、
動物実験を中心に行います。
また、人間も含めて、より広い研究範囲になってくると、
認知神経科学cognitive neurosciencと呼ぶようになります。
生理心理学と重なる部分が非常に多いのですが、
ここで述べる内容は、どちらかというと、
認知神経科学と呼べるものだと思います。
名前はともかくとして、
脳と心の関係を解明するのが目的であることに変わりありません。
なので、そのような目的を念頭に置いて、
読んでいただけるといいと思います。

では、神経系の概要について簡単に説明します。

神経系は、中枢神経系と末梢神経系から構成されます。
中枢神経系は、脳と脊髄から、
末梢神経系は、体性神経系と自律神経系から、
(機能的には運動神経と感覚神経から)構成されます。
体性神経系は、脳神経と脊髄神経から構成されます。

脳は、大脳、小脳、脳幹、間脳からなります。

大脳は、総脳量の85%で、
大脳皮質と大脳基底核と大脳辺縁系からなります。
(なお辺縁系は、皮質や基底核とかぶる部分もある)
大脳皮質は、厚さ2~4mmの表層部位で、
140億個のニューロン細胞体の集まりです。
大脳基底核は、視床を取り囲むように存在する神経核群で、
被殻と尾状核からなる線条体と淡蒼球からなります。
大脳辺縁系は、基底核の外側、脳梁を囲むようにある構造で、
海馬、扁桃体、側坐核、帯状回、嗅球などからなります。
大脳皮質は、主観的な意識経験や運動に、
大脳基底核は、随意運動の調節に、
大脳辺縁系は、記憶や情動に関与しています。

小脳は、大脳の下背側にある総脳量10%の脳で、
小脳皮質、小脳回、小脳白質、深部小脳核などからなり、
運動のタイミングを調節する機能を持ちます。

脳幹は、中脳、橋、延髄からなる神経核群で、
生命維持機能に非常に重要な役割を持っています。
中脳は、中脳蓋、被蓋、黒質、赤核、中脳水道、
中心灰白質、腹側被蓋野などの神経核からなります。
橋は、中脳と延髄の中間にあり、小脳と連絡をする神経核です。
延髄は、脊髄につながる部位で、
オリーブ核や孤束核などが主要な神経核です。

間脳は、視床と視床下部からなります。
視床は、脳の中心にある神経核群で、
あらゆる情報の中継を行います。
視床下部は、視床の下にある部分で、
体温調節、血糖値調節、ホルモン分泌などを行う
本能の座と呼ばれる部位です。

脊髄は、脳と末梢をつなぐ中央道路のようなもので、
運動神経軸索の前根、
感覚神経軸索の後根で脊髄神経とつながり、
後角、側角、前角という灰白質と
後索、側索、前索という白質からなります。
灰白質は、細胞体があるところ、
白質は、軸索が走っているところです。

このような脳と脊髄をまとめて中枢神経系と言います。

次に、末梢神経系について説明します。
体性神経系は、脳神経と脊髄神経からなります。
脳神経は、12対あり、
第Ⅰ脳神経~第ⅩⅡ脳神経まで番号がついています。
それらのうち、第Ⅲ~第ⅩⅡ脳神経は、脳幹から出ています。
脊髄神経は、全部で31対あって、
脊髄の各節から出ています。

自律神経系は、交感神経系と副交感神経系からなります。
交感神経系の興奮によって、
瞳孔散大、心拍数上昇、胃や腸の弛緩などが起こり、
副交感神経系の興奮によって、
瞳孔収縮、心臓の拍動抑制、胃や腸の収縮などが起こります。
もちろん他にもさまざまな機能があります。
このように、交感神経系と副交感神経系は拮抗しています。

自律神経系の活動は、不随意です。
体性神経系は、随意的に制御できます。

このように、末梢神経系は、
脳からでる脳神経と脊髄からでる脊髄神経からなる体性神経系、
交感神経系と副交感神経系からなる自律神経系から構成されます。

最後に、脳が何からできているのかについて説明します。
脳は、神経細胞=ニューロン、支持細胞=グリア、脳室からなります。

ニューロンは、細胞体と神経突起(樹状突起、軸索)からなります。
細胞体は核を持ち、即ち、DNA情報を持ちます。
神経突起というのは、情報を受けたり、送ったりする部分です。
樹状突起は、情報を他のニューロンから受け取る部位、
軸索は、受け取った情報を次のニューロンへ出力する部位です。

グリアは、ニューロンの10倍の数存在する支持細胞で、
不要な細胞や化学物質を除去したり、
ニューロンに栄養を与えたりして、
ニューロンの活動を支えます。

脳室は、脳脊髄液CSFで満たされた空洞部分で、
側脳室、第3脳室、第4脳室からなります。
かつてこの液体が身体をめぐって、
精神活動が起こるとされていた時代の話は以前しましたが、
現在の考え方は、そうではなく、
精神活動は、ニューロンの電気信号が
超複雑な神経ネットワークを伝わることで実現されているとします。

樹状突起で信号を受信し、
軸索の終末部位まできた情報は、
次のニューロンに神経伝達物質を介して伝達されます。
その部位のことをシナプスと呼びます。

このことが延々とつながって、
例えば、筋肉が動いたり、音が聴こえたり、光が見えたりします。

今日は、神経系の概観をしました。
明日からは、こまかく説明をしていきます。