脳神経科学12
運動制御6
外側経路と腹内側経路

今日から脳による制御のお話しをします。

中枢運動系は階層化されています。
高位が大脳皮質連合野と大脳基底核、
中位が大脳皮質運動野と小脳、
低位が脳幹と脊髄です。

高位は、運動の戦略をやります。
どういう動きをするべきか、したいか、です。
中位は、運動の戦術をたてます。
この空間時間で、正確かつなめらかな運動をする計画です。
低位は、運動の実行をします。
神経発火によって運動・姿勢を調節します。
音楽に関する運動制御は聴覚のときに書いたので参照してください。

大脳皮質運動野から脊髄へ下行する運動神経経路は、
下行性脊髄路と言われます。
下行性脊髄路は、外側経路と腹内側経路の2つに大別されます。

外側経路lateral pathwayは、遠位筋を制御し、
皮質脊髄路と赤核脊髄路からなります。
皮質脊髄路corticospinal tractまたは錐体路pyramidal tractは、
中枢神経系で最も大きな神経経路で、
大脳皮質運動野から遠位筋へ向かう運動神経の束です。
3分の2が運動野(BA4、6)、残り3分の1が体性感覚野などから出て、
内包、中脳大脳脚、延髄錐体を通過し、
そこで対側に交叉して、
脊髄前角背外側部および中間部灰白質で
運動ニューロンと介在ニューロンに投射し、
効果器である筋線維を支配しています。

よく言われることですが、
右半球の運動野は左半身を、
左半球の運動野は右半身を支配しています。
したがって、例えば右半球運動野に障害を持つと
左半身が麻痺することがあります。逆も同じです。

赤核脊髄路rubrospinal tractは、
中脳赤核からスタートし、
橋で交叉して、延髄下行し、
脊髄側索で皮質脊髄路と合流する経路です。
ヒト以外の哺乳類ではこれを運動制御に使うのですが、
ヒトはこの経路を使うことはあまりありません。
例えば、外側経路が障害を受けたというときに、
この赤核脊髄路が働いて、運動消失を防ぎます。

腹内側経路ventromedial pathwayは、近位筋体幹筋を制御し、
前庭脊髄路、視蓋脊髄路、橋網様体脊髄路、延髄網様体脊髄路
の4つからなります。
これらは視覚・体性感覚・身体状況の情報を利用して、
反射的に体のバランスと姿勢を維持する働きをしています。

前庭脊髄路vestibulospinal tractは、
延髄前庭神経核vestibular nucleiにはじまり、
脊髄を同側性に下行して腰部脊髄に至る経路と、
脊髄を両側性に下行して頚・背部の筋を支配する経路があります。
延髄前庭神経核は、第Ⅶ脳神経によって
内耳前庭迷路vestibular labyrinthから入力を受けます。
ここは頭が傾くことで中のリンパが動いて、
それを有毛細胞が検知して発火を起こすので、
頭が今どういうふうになっているかの情報を出します。
それに基づいて延髄前庭神経核から2つの場所へ制御がかかります。
1つは、足の伸筋運動ニューロンを支配する腰部脊髄で、
直立姿勢を維持させます。
もう1つは、頭の動きを制御する頚・背部の筋で
頭部の安定性を生み出します。
このように頭バランスと直立姿勢を保持するのがここの役割です。

視蓋脊髄路tectospinal tractは、
網膜、視覚野、体性感覚野、聴覚野から情報を受ける
中脳上丘にスタートして、延髄を下行し、
対側の脊髄に投射する経路です。
眼球運動についてはまた注意のときにお話ししますが、
見る必要があるものや反射反応するべきものに対しては
頭や眼球を動かす定位反応をします。
上丘には外界地図がありますので、
ある点が刺激されるとその点を中心窩に結像するように、
定位反応をつくりだします。
これをするのが視蓋脊髄路です。

橋網様体脊髄路pontine reticulospinal tractは、
橋網様体から脊髄へ下行する経路で、
延髄網様体脊髄路medullary reticulospinal tractは、
延髄網様体から脊髄へ下行する経路です。
前者は、下肢伸展を促進させて、立位姿勢を維持させます。
それに対して後者は、この抗重力筋反射から解放させます。
このようにこれらの部位は立つ-座る・しゃがむを制御します。

今日は下行性脊髄路の経路とはたらきについてお話ししました。
反射で働く経路もありますが、
すべて大脳皮質によるコントロールをすることができます。
随意運動を見る上で大脳皮質は重要なものです。
では明日は大脳皮質による運動計画の仕組みについてお話しします。