脳神経科学8
感覚知覚系-視覚3
神経節細胞から脳へ

今日は前回につづいて神経節細胞から
脳における処理までお話ししたいと思います。

まず視覚の全体的な経路を復習しましょう。
光感受性をもつのは網膜にある視細胞で、
視物質が光を吸収して細胞膜電位を過分極させます。
視細胞には桿体と錐体があり、
色の検知を行うのが錐体です。
錐体はヒトを含めた霊長類では3種類があります。
また桿体は色には反応せず明るさを検出しています。
そしてこの明るさと色は神経経路が別経路になっています。
視細胞から双極細胞を経て神経節細胞へと信号が伝わり、
神経節細胞の軸索は視神経となって視交叉に到達します。
視交叉で鼻側の網膜からの神経は交差しますので、
よって左視野は右側へ、右視野は左側へいきます。
視交叉からは視索がのびて、外側膝状体を中継し、
視放線を描いて大脳皮質第1次視覚野へ投射されます。
それ以降は背側と腹側に大きく分かれて、
背側では空間と動き、腹側では形と色の分析がされると説明しました。

ここ以降では外側膝状体および第1次視覚野は
どのような構造をしていてどのように処理をしているかを説明し、
明日はいわゆるおばあちゃん細胞説の問題点について考えます。

外側膝状体は視索の投射部位で、6層構造をしています。
左の外側膝状体には右視野からの情報、
右の外側膝状体には左視野からの情報がきます。
層は腹側から順に123456と番号がついています。
1と2は大細胞層、3~6は小細胞層、
そしてそれぞれの腹側にある層が小顆粒細胞層です。
ちなみに1は反対網膜から、2は同側網膜から、
4と6は反対網膜から、3と5は同側網膜からきていますので、
外側膝状体レベルでは左右の眼からの情報は混ざりません。
この反応特性を単眼性と言います。
また、大細胞層は網膜のM型神経節細胞から受けていて、
波長に無反応で、運動視と奥行視をやっています。
受容野は比較的大きい中心-周辺受容野です。
小細胞層は網膜のP型神経節細胞からで、
波長の違いに反応し、色や形の知覚をやっています。
受容野は比較的小さい中心-周辺受容野です。
小顆粒細胞層は網膜の非M非P型神経節細胞からきています。
明暗あるいは色対立の性質をもつ受容野を構成しています。

第1次視覚野は霊長類の大脳皮質後頭葉に位置し、
内側面では鳥距溝という溝を取り囲んで存在します。
ブロードマンの17野で、V1やBA17野、
あるいは有線皮質と呼ばれています。
ちなみにそれ以外の皮質を有線外皮質と呼びます。
聴覚ではトノトピーという性質を紹介しましたが、
それと同じようなことが視覚系にもあり、
網膜部位局在retinotopyレチノトピーと言います。
これは網膜、LGN、V1に見られるものです。
つまり網膜上での位置関係がきれいにV1で再現されています。
しかし勘違いしてはいけないのですが、
網膜上にうつった像がそのまま皮質にうつっているわけではないです。
視知覚とは、像としてではなくニューロンの発火パターンとして
情報表現されているということが基本にあるからです。
また中心窩付近には神経節細胞が多く、周辺では少ないので、
脳内再現において中心窩付近の増幅誇張が起こります。
有線皮質も6層構造をしています。
ちなみに大脳皮質は基本的にどこでも6層構造ですね。
Ⅰ層からⅥ層まであるわけですが、
Ⅳ層はABCに分けられ、さらにCはα層とβ層に分けられます。
ですので実質的には9層あるようなものです。
伝統的に6層で扱いますが、この6層で厚さ2mm程です。
LGNでの大細胞層からの情報はⅣCαから入力されます。
LGNでの小細胞層からの情報はⅣCβから入力されます。
また、小顆粒層(K層)からはⅡとⅢ層から入力されます。
その時点では単眼性の性質を維持していますが、
それ以降の層での処理では左右の眼からの情報が混ざります。
それがⅣCαからⅣBへ、ⅣCβとⅡⅢからⅢ層へつながります。
で、これらの層からほかの皮質領野へと出力されています。

有線皮質はモジュール構造をしていることはよく知られています。
ある特定の方向に対して最大反応をするニューロンがあり、
なおかつそれが秩序正しく並んでいます。
これを方位コラムあるいは方位円柱と言います。
第Ⅳ層に限って優位眼コラムがあります。
ここでは単眼性であるために見られるものなのですが、
それ以降の層では両眼性の性質を持ちます。
またある方向への動きに最大反応するものもあり
それは運動方向選択性をもつと言えます。
ブロッブニューロンというものもあります。
これは、2mm四方に16個あるもので、色の分析をしています。
このように有線皮質は、
方位円柱と眼優位円柱、そしてブロッブニューロンでできていて、
秩序正しく並んでいるということになります。

ここまで網膜→LGN→有線皮質の対応を見てきましたが、
視覚入力は形と色と動きで並列に処理されていることが分かります。
よく並列経路と言われてきたわけですが、
経路には大細胞経路=動き分析、ブロッブ経路=色分析、
小細胞ブロッブ間領域経路=形分析の3つがあります。
この中でブロッブ経路はもっとも混合が多い経路になってます。
ただし相互作用が多いことが分かってきて、
色と形と動きが独立に並列して処理されているというのは
間違っているのではないかと最近言われ始めています。

最後に有線外皮質での視覚経路と処理について簡単に紹介します。
V1以降は背側経路と腹側経路の大きく2つの経路に分岐します。
背側経路は頭頂葉のほうへいく経路で、
腹側経路は側頭葉のほうへいく経路です。
背側経路は、V1、V2、V3、MT、MSTなどを通ります。
腹側経路は、V1、V2、V3、V4、ITなどを通ります。
V1は初期的な処理をしているわけですが、
それ以降段階を経るにしたがってより高次な処理になります。
背側経路では主に空間認識と動きの知覚をしています。
MT野はほぼすべてのニューロンが運動方向選択性を持ちます。
腹側経路では主に形と色の分析をしています。
V4は形と色の知覚に重要ですし、
IT野は下側頭葉にありますが、複雑な形や顔の認知にも関わり、
さらには視覚記憶とも関連しているとされています。
昔ペンフィールドがやった電気刺激実験からも、
側頭葉が記憶痕跡であるという示唆が得られています。

このように視覚は網膜からLGNを中継し、V1で初期処理がされ、
形と色の分析経路と空間と動きの分析経路に分かれます。
しかし、問題はそれがどうやって統合されているかです。
例えば、友達の顔を見たとき、一瞬でそれが誰か分かりますよね。
ということは、その顔に反応するものが脳内に
何らかの形で存在するはずです。
それがどのようなかたちで存在するのか、まだ分かりませんが、
今現在有力とされている説について明日紹介します。