脳神経科学4
シナプス伝達2
今日は、シナプス伝達の基本原理について説明します。
第1に神経伝達物質の合成と貯蔵機序、
第2にシナプス間隙への放出機序、
第3に伝達物質から電気信号への変換機序、
そして最後に神経伝達物質の除去の機序という順番で述べます。
神経伝達物質neurotransmitterには、
アミノ酸、モノアミン、ペプチドの3種類があります。
主なものを列挙すると、
アミノ酸は、ガンマアミノ酪酸、グルタミン酸、グリシンなど、
モノアミンは、アセチルコリン、ドーパミン、セロトニン、アドレナリンなど、
ペプチドは、コレシストキニン、ダイノルフィンなどがあります。
それぞれの伝達物質は、違う場所で合成されます。
ペプチドはリボソームによってつくられ、
細胞体内の粗面小胞体で合成されます。
そのあと、ゴルジ装置で切断され、
微小管の軸索輸送によって軸索終末まで運ばれ、
分泌顆粒として貯蔵されます。
アミノ酸とモノアミン系は軸索終末の細胞質ゾルで合成され、
小胞の膜にある輸送体によってシナプス小胞に濃縮されます。
ここでは主にアミノ酸とモノアミン、
すなわちシナプス小胞からの伝達物質放出を取り上げて考えます。
ニューロンには大きく錐体細胞と星状細胞があります。
錐体細胞は、通常、興奮性ニューロンです。
また星状細胞は、通常、抑制性ニューロンです。
錐体細胞のシナプス伝達で使われるのがグルタミン酸で、
これは中枢神経系のほとんどの興奮性ニューロンで使われます。
また、星状細胞のほとんどでは、
ガンマアミノ酪酸(GABA)が抑制性伝達として使われます。
ちなみに、すべての運動ニューロンで使われているのは、
モノアミンのアセチルコリンです。
その神経がどういう部分で、どういう機能をもつかによって
使われる神経伝達物質が変わってくるわけですが、
では、それらはどのようにシナプス間隙へ放出されるのでしょうか。
軸索終末に活動電位が伝導されてくると、
膜の脱分極が起こり、シナプス後膜にある
電位依存性カルシウムイオンチャネルが開口します。
すると、濃度勾配に従って、カルシウムイオンが細胞内へ流入します。
結果、シナプス小胞とシナプス前膜が融合し、
シナプス間隙へと伝達物質が放出されます。
次に問題になるのは、
間隙に放出された神経伝達物質はどうやって
次のニューロンの信号に変換されるのかということです。
シナプス後膜には神経伝達物質を受ける受容体があります。
受容体は、イオンチャネル共役型と代謝共役型の2つです。
イオンチャネル共役型では、膜貫通性タンパク質でできていて、
受容体のサブユニットの特定部位に伝達物質が結合することで、
イオンチャネルが開口する仕組みができています。
すると、イオンが細胞内へ流入し、
膜電位変化が起こり、その電位がさらに伝導されていきます。
もしチャネルが陽イオンに透過性を示す場合、
シナプス後ニューロンにはEPSP、
すなわち興奮性シナプス後電位が生じます。
あるいはもし陰イオンに透過性を示す場合、
シナプス後ニューロンにはIPSP、
すなわち抑制性シナプス後電位が生じます。
次のニューロンに興奮が伝えられるか抑制が伝えられるかは、
どの伝達物質が結合して、どのイオンが流入するかで決まります。
一番多い例で言えば、錐体細胞はグルタミン酸を出します。
グルタミン酸が受容体に結合すると、Na+を通す場合が多いです。
すると、シナプス後電位はEPSPとなります。
その逆の例がGABAによってCl-が通される場合です。
受容体のもう1つのタイプである代謝共役型というのは、
セカンドメッセンジャーを介して別のイオンチャネルが作動します。
これはまた折に触れて説明しますが、ここでは割愛します。
最後に、受容体に結合したあと、神経伝達物質はどうなるのか、
ということになるわけですが、大きく3つの機序が存在します。
1つ目は、単純に拡散すること。
2つ目は、シナプス前あるいはグリアへの取り込み、
3つ目は、シナプス間隙での酵素的分解です。
これで、1つの活動電位が軸索を伝わり、
神経終末から次のニューロンへ情報を受け渡す過程の説明ができました。
このブログは、少しお休みさせていただき、
次回は9月7日に更新します。
神経伝達物質のお話を少しして、EPSPとIPSPについて述べます。