リバプールのキャバーンクラブ | 日常のメモ

リバプールのキャバーンクラブ

若き日のビートルズが演奏していたキャバーンクラブに行ってきました。

今あるキャバーンはオリジナルからずっと続いているわけではなく、本来の場所からは道を挟んで向こう側にあり、本物を忠実に再現したライブハウスです。オリジナルのキャバーンは、パリにあったジャズクラブをモデルにして創設されたジャズクラブでした。時を追うにつれて、スキッフルやロックのバンドが増えてゆき、60年代初頭にはビートミュージックが主流になったようです。

ビートルズがここでライブを始めたのは意外と遅く、1961年7月。レコードデビューの1年3ヶ月ほど前です。そしてここでの最終公演は63年8月。63年といえば、もうスーパースターになっていた頃です。そんなスターが地下室のような小さなクラブで演奏していたとは。この間、292回もライブをしていたというから、ビートルズとキャバーンは本当に切っても切り離せない深いつながりがあり、ファンだけでなく、メンバー自身にも強い愛着があったでしょう。

レプリカとはいえ、ステージやその周辺の構造なんかは本物そっくりらしく、建材もオリジナルのものをいくらか持ってきて使っているようです。ぱっと見ると、50年代から存在していると言われても、そのまま信じてしまうでしょう。

店内には、ここで演奏した人達の写真や、ミュージシャンから寄贈されたギターなどが飾ってあります。BBキング、キーズ・リチャーズ、ミック・テイラーなど豪華な顔ぶれです。やはり格が違いますね。


このクラブでは毎日ライブ演奏が行われています。アコースティックの弾き語りから、インディーズ、そして数多くの“トリビュート”バンド。キンクスやジャム、ダイアー・ストレイツ、そしてもちろんビートルズまで様々な大御所バンドがカバー演奏されているようです。そのレベルもかなり高いのではないかと想像されます。

僕が行った日は運よくビートルズ・トリビュート。僕は時折こうしたバンドに懐疑的になることがあるのですが、この日のバンドが本当によかった。細かいところまでよく研究している。演奏や歌がものすごーく似ているのはもちろんのこと、メンバーの口癖やアクセント、有名なセリフまで散りばめられています。まさにディテールへの愛情。もちろんあら捜しをすれば、あれが違う、これが違うと言えるのでしょうけど、そこはざっくりと雰囲気で楽しもうと思えば、ぶぁーっとエンジョイできます。これは、会場にいた他のお客さんも同じだったでしょう。客層は、20代から60代、ほとんどがイギリス人だったように見えました。ただ、ほとんど全員観光客なのでしょう。地元の人はこういうところには滅多に行きませんよね。観光客だからテンションが高い。いったん演奏が始まると、みんなそれに合わせて歌います。感心するばかりに最初から最後まで、さびの部分だけじゃなくて、全部の歌詞を覚えているんじゃないかっていうぐらいに歌っていました。ああいうのをみると、イギリス人にとってビートルズ、あるいはポップ音楽って、表面的な楽しみじゃなくて、いつの間にやら血と骨に染みこんだ根深い文化なんだなって思います。ブラジル人にとってのサンバ、日本人にとっての盆踊り、イギリス人にとってのビートルズ。



チャージはたったの4パウンド。ビールが美味しかった。Cavern Aleというオリジナルビール(どこまでオリジナルなのかは分かりませんが)までありますが、これはなかなかです。1パイントで4パウンド足らずでした。

これに隣接して、キャバーンラウンジ、キャバーンパブなどもあり、こちらでも演奏が聞けるようです。そしてこの周辺には、他にも大きめのクラブやパブなどがあり、夜な夜なライブやパーティーが繰り広げられているようです。この日は、アイルランドの祝日「St. Patrick's Day」だったので、アイリッシュパブをはじめ、路上でも巨大なパーティーとなって、酒池肉林状態でした。それでなくても飲んだときのテンションがむちゃくちゃ高いイギリス人、さらに炸裂していました。



こうした陽気で、ややもすると下品で危険な盛り場で(リバプールだけではなく、ハンブルクでも)数百回も演奏してきたビートルズ。ここで培ったであろうタフさはあきらかに音にも表れています。彼らの音楽って、美しいだけじゃなくて、かなり強靭ですからね。そういった意味でも、このエリア、ビートルズの根っこです。