【小説】政治学(閣下の章36) | 箱庭の空

箱庭の空

小さな世界。

 次の戦いは、言論。差し当たって監査だ。

 普通なら、自分は守る側。しかし何を守るというのだろう。よく考えてみたが、分からないのだった。利益であるにしても、何であるか、確かなところが見えない。それに、今までの扱いを思い返せば、そんなよく分からないもののために戦い守る気には、さらさらならなかった。


 まずは、期日までに書類を作成する。予めあらかた入力してあったので、そこまで難儀はしなかった。期日ぎりぎりに、格納庫と電波装置を備品登録しろとの指示があったことを除いては。


「取り外して盗難する者などいるのですかね」


 思わずぼやいた。周りも同感のようだった。

 何か基準があるのだろう。そう思わされた。


 よく考えて応酬する。それを心がけて臨んだ。それでも幾つか指摘をされた。

 最も困ったのは、施設の改築と同時に導入されたと思われる、十五脚の椅子についてだ。学習室に置いてあり、それなりに活用されているが、経緯も価格も、製造元さえ不明なのだ。ビニールで覆われた背もたれと座面が繋がっていて、規格が奇妙で特注品に見える。

 これを修繕した理由を説明するのは難しかった。購入した当時は安価だったが、現在、同規格のものは価格が高騰している。費用対効果の面を考慮に入れても、ビニールを張り替えれば後十数年もつことになり新品を購入するより良い。と事実を述べた。

 他にも、防災上の危険とか……落下防止柵がない……、別館に傾斜があり雨水が入り込むのは、地盤沈下のせいではないかとか、施設を使用していない時でも光熱水費が発生しているのは何故なのかとか、色々あった。

 中でも、特定個人しか使わない装備、具体的には拡声用の骨伝導マイクを貸与品として購入していることに注目された。その装備が必要なのではないかと思われる者は他にもいるが、規格が合わないとかそもそも機械を持っていないとかで使えないのだった。


 そんなどたばたした監査と前後して、通常業務や会議などもあった。


「あれ?この文書の保存年限って五年じゃなかったでしょうか」


 文書の整理をしていた同僚がふと気付いた。確かに通知を確認したところその通りだった。管理用の一覧は、ずっと誤ったままになっていたのだ。

 アリオールは、これを担当に伝えると同時に、


「班には制度変更によく気付く人がいて、彼らの言う通りに手引や一覧は改訂されていたのですよ。何故この誤りには気付かなかったのでしょうね」


と添えた。

 恐らく別系統からの指示だからだと推測はしたが。


「私の言うことは愚にもつかない悪口ですが」


 断った上で続けた。


「そもそも会議自体がおかしいように思いますよ。ある人が言って通らなかったことが、別の人が言うと通る。それが民主的な議論と言えるのならそれで良いですが。意見を言う気がなくなるけれども、それでも言っていくのもいいかもしれませんね。通らなかった実績を積み重ねて記録に残せば良い」


 民主的な議論などという言葉を敢えて使ったのは、軍の関連書籍や内部闘争の文面などで見たことがあったからである。取り分けアリオールを中傷した者の一人はそういうものに傾倒しているはずであった。