『鎌倉殿の13人』〜後追いコラム その95
第23回 狩りと収穫
今回は、さすが!三谷幸喜の曾我事件について
なるほど!そう来たか!が今話を観ての第一印象。曽我兄弟の仇討ちについては、これまでも書いてきたが、元々鎌倉殿の暗殺が主目的で、工藤祐経(坪倉由幸)の謀殺はたまたまだったという筋書き、曽我兄弟が工藤祐経を仇として討ち果たしたことを全面に打ち出すことで、鎌倉殿の名誉も守られるという筋書きに鳥肌が立った。
(頼朝の寝所に襲撃しようとしている曽我兄弟)
ドラマとしては、この時代の歴史を熟知している方々も「あっと」言わせるような展開だったと思う。さすが、予測不能を謳ったドラマだけある。もちろん、史実がどうだったかは誰にもわからない。今話で、残された史料や読み物等々から組み立てられた従来の構図が見事に打ち壊されたと言えるだろう。
(『曽我物語』1627(寛永4)年刊)
曽我兄弟の仇討ちを描いた『曾我物語』は、作者・成立年代ともによくわからないが、おそらくは南北朝から室町時代初期には成立していたであろうと言われている”読み物”。物語の途中で中国の故事が挿入されたり、物語をドラマチックに描く手法が随所に挿入されている。『平家物語』に有る事無い事さまざまな話を挿入して、読む者をワクワクさせる『源平盛衰記』に通じるものを感じる読み物だ。つまり、そこに書かれている事は事実ではないと言う前提に立てば、今話のような描き方もできると言うこと。『義経記』も同様だが、歴史上の悲劇のヒーローを欲していた読み手をいかに満足させるかが当時書かれた軍記物だとすれば、その残された読み物通りに脚本を書く必要はない。
頼朝(大泉洋)が、義時(小栗旬)の嫁にと政子(小池栄子)に薦めた比奈(堀田真由)を狙って、夜這いしたことで頼朝が救われたように描かれた今話。史料的には義時が一方的に好意を寄せていた比奈を真逆に描いた今話。随所に三谷幸喜の凄さを感じる今話だった。
これまで、全話観てきたが、歴史を少し齧ってきた者の端くれとして、今話は一番「そう来たか!」と思わされた回だった。
その94で予告した範頼(迫田孝也)謀殺(もしかしたら単に失脚かもしれない)は、次週送りとなったが、今話を見てまた次週以降が楽しみになった。
そろそろ頼朝が死ぬ年が近づいている。今話でも、富士の巻狩りの時、曾我兄弟から命を狙われた頼朝が、今回は神仏によって守られたという実感がないと言うようなセリフを吐いた。果たして、頼朝の死はどのように描かれるのか??ますます期待が高まった今話だった。