解雇するかどうかは、解雇される本人に選ばせる | フィリピンで働くシリアル・アントレプレナーの日記

解雇するかどうかは、解雇される本人に選ばせる

レアジョブ英会話の強みは、人とビジョンだ。
「日本人1000万人を英語が話せるようにする」
といった明確なビジョン・ミッションのもとに集う、
講師、スタッフ、お客様が大切な財産だ。

だから人を大事にしようとしている。

ここで大事なのは、
人を大事にする、というのは、
ゆるくする、ゆるくやる、ということではない。

相手の将来のことを真剣に考えれば考えるほど、
厳しく接する必要がある。

例えば、正社員の入社後半年間の試用期間。
日本側では形骸化していて、試用期間だからといってこの間に解雇されることはあまりない。
しかしフィリピン側ではこの試用期間をきっちり使う。
日本よりもフィリピン側の方が正社員を手厚く保護している分だけ、
保護するに見合うかどうかをこの期間中にチェックし、
見合わない場合は解雇されるケースがよくある。

当然、レアジョブ英会話のフィリピンオフィスでもそうしなければいけない。
レアジョブに合わない人がレアジョブに長くいることは、
レアジョブにとっても損失だが、
その人にとっても、他社に行けばもっと伸びていたかもしれないなど損失になる。

その人の能力の見合わなさが、
育成に値するレベルであれば全然問題はないのだが、
育成にも値しない場合、
能力が足りない人が、能力を育成されずに放置されてしまう。
これが最悪のケースだ。

だから、しょうがないながらも試用期間中の解雇という制度を持たざるを得ない。
しかし、ただ解雇するだけでは普通の会社とおんなじになってしまう。

だから一工夫している。
解雇するときは解雇する。
だが、解雇するかどうかは会社側が選ばない。
そのかわり、解雇される当人に解雇されるかどうか選んでもらう。

そんなのが可能なのか、と思われるかもしれない。
だが、下記のプロセスをきちんと追えばそれは可能だ。

a) 正社員として入社したスタッフがいる場合、その上長は、スタッフ本人のパフォーマンスに基づき、入社後2か月以内に赤信号を出す責任を負う。
b) 赤信号が出た場合、本人の上長は、本人のメンター(Buddyともいう)と2人でミーティングを開く。(本人の上長の上長が入る場合もある)
c) そのミーティングで話し合われるのは、どのような状況が会社と本人にとってWin-Winか。

c1)(さきに述べたように) 期待されている能力を発揮できないのは、本人にとっても会社にとってもつらい。これはLose-Loseなケースだ。
c2) 一方、本人の実力が伸び期待されている能力を発揮できた場合。これは会社にとってWin-Winだ。
c3) また、本人の実力が伸びなかったとしても、本人の実力が伸びる別の環境を手に入れる。これは中くらいのWin-Winと言える。

d) すると選択肢で c1) はありえないので、 c2)かc3)が選択肢になる。
e) ここで大事なのは、c2)の「期待されている能力」を明確に言語化することだ。特に、数値化する努力を怠らないこと。例えば、「品質の良いコードを期日以内に仕上げる」ではダメ。「バグ発見率が○%以下かつ要件との適合率が○%以上のコードを、○案件中○%において期日以内に上長に提出すること」 などならOK。
f) ここまで言語化したうえで、同じメンバーで、今度は本人を招いてミーテイングを行う。本人には今起きている状況や本人への評価を率直に伝える。その上で、この会社はWin-Winを目指している。上記c1)は選べないから、c2)かc3)を選ばないといけない。もちろん、c2)がベストなのでc2)を一緒に目指したいと伝える。
g) そのうえで、e)で言語化したものを伝える。ただここで大事なのは、決定事項を伝えるという形式ではないことだ。e)の基準が妥当かどうか、もう一度議論する。本人からの視点、会社からの視点を一緒になって整理する。 そうするとe)の基準に調整が加わり、よりWin-Winな基準をつくることができる。
h) 基準を定めたら、それをどのタイミングでどう評価するかも共有する。試用期間は6か月あるが、評価するのは一発きりではダメ。必ず途中の評価タイミングを1,2回はいれ、評価基準をすりあわせる。
i) 以上、能力の基準や評価方法を腹の底から合意できるか、本人に確認する。本人が同意したら、最後に本人にこう伝える。

いま、あなたを解雇するかどうかの選択権は会社にはない。あなたにある。成長するのか、会社を去るのか。それはこれから数か月のあなたの努力次第だ。あなたの将来はあなたが決めるんだ。私たちが決めるんじゃない。
 
j) このセリフに本人がうなずいてくれたら、ミーティングはそれでおわり。
k) あとは決められた通りに評価を行い、決められた通りに行動する。


以上のプロセスが、解雇するかどうかを解雇される当人に選ばせるプロセスだ。

ここまでかいて、我ながら、面倒くさいプロセスを踏んでいるなぁ、と思う。
書類1枚とかで解雇している会社はフィリピンに実際多いと思うし。
でもこの面倒くさいプロセスが、人を大事にする、しかも異文化で大事にする会社にとっては、大事なんだと思う。
このプロセスを経ると、たいてい解雇せずに済む。
解雇せずに残って順調に昇格しているスタッフを僕は何人か知っているし、
解雇せざるを得なかった場合でも、労働局に駆け込まれした例はいまのところない。(注1)

人を大事にする。
それがもし当社レアジョブでできているとしたら、
こういう面倒くさいことをやり通そうとしているからだと思う。




(注1)
そもそも、このプロセスを悪用しない人を、たとえ解雇という結果になるとしても、そもそも採用している、というのも一つの理由だと思う。また、業績不振による解雇でないためにもめにくい、というのもあると思う。